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ご長寿よろず診察室 神経内科のお話し その11

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第11回:腰痛と動作緩慢
担当ドクター 北村伸先生 (日本医科大学武蔵小杉病院 内科)


 歳をとってくると脊椎の変形や骨粗鬆症などにより腰痛を訴える人が多くなります。そんな中に、時々パーキンソン病の患者さんがいます。

 岩本さん(仮名)という73歳の男性は、自宅の近所の整形外科医院に2年前から腰痛で通院していました。薬、牽引療法、マッサージなどを続けていましたが、腰痛は続いており、最近は何をするにも動作が遅くなり、速く歩くことができなくなってきました。このようなことは全て腰が痛いことによると思っていたのですが、主治医の整形外科の先生が一度神経内科で診てもらいましょうと私のところに紹介をしてくれました。
岩本さんの話
 2年半ぐらい前から腰痛があり、治療を受けていましたが痛みはあまり変わらず、1年くらい前から奥さんと一緒に歩くと必ず自分の方が後を歩くようになってきました。以前は他人よりも歩くのが速いほうだと思っていたのですが、最近は他の人に抜かれてしまうようになりました。これも腰が痛いせいだと思っていたそうです。そして、車から降りるのに10分ぐらいかかってしまうこと、ボタンをかけるときやシャツを脱ぐのに今までの10倍ぐらい時間がかかるようになったということでした。
どんな異常があったでしょうか
 診察をしました。イスに座って膝の上に手を置いてもらうと両手に少しふるえがありました(安静時振戦)。ベッドに横になるときには時間がかかり(動作緩慢)、まっすぐ横になるように指示したのですが身体は少し斜めになっていました(斜め徴候)。身体の力を抜いてもらい、岩本さんの四肢を屈曲、伸展すると、抵抗を感じました(筋強剛、固縮)。歩いてもらうと、少し前屈み(前屈姿勢)で、歩幅が狭く(小歩)、両側上肢の歩行に伴う振れが全くありませんでした。
 診断は
安静時の振戦(振るえ)、四肢の筋強剛(固縮)、動作緩慢、そして歩幅が小さく(小歩)て上肢の振れのない歩行が認められたことからパーキンソン病を疑いました。

 パーキンソン病と同じような症状のある病気はたくさんあります。脳血管障害が多発しているようなとき(脳血管性パーキンソニズム)、薬によるもの(薬剤性パーキンソニズム)、そしてパーキンソン病の症状のある神経変性疾患(脊髄小脳変性症、進行性核上性麻痺など)などが含まれます。
岩本さんの頭部MRIでは年齢相応の脳萎縮所見のみで、他に異常はありませんでした。血液検査でも異常なく、服用していた薬も痛み止めだけでした。したがって、パーキンソン病と診断して治療を始めました。
 
 パーキンソン病とは
 パーキンソン病は、神経内科の病気として多いもので、歳をとった人に多くおこります。脳にある黒質の神経細胞が変性して脱落していきます。原因は不明です。黒質の神経細胞は線条体(尾状核と被殻)に線維を送っています。そして、その神経伝達物質はドーパミンです。したがって、パーキンソン病では線条体のドーパミンが減っています(図1)。
                                          
       MRI             パーキンソン病            正常        


図1. 11C-CFT PET(ドーパミン再取り込みを示す)とMRI
被殻でドーパミン再取り込みは低下しています(図中矢印部分)。つまりドーパミンが少ないこと    を示しています。
11C-CFT PETイメージは日本医科大学千葉北総病院脳神経センター三品雅洋先生提供)

 症状は、振戦、筋強剛(固縮)、無動(運動が遅くなったり少なくなる)、姿勢反射異常(体のバランスをとることがうまくできなくなる)などが主なものです。
もう少し具体的にいうと、じっとしているときに手や足が振るえ(安静時振戦)、箸やコップを持ったときのように一定の姿勢をとったときに手が振るえる(姿勢時振戦)こともあります。表情があまりなくなり、仮面のような顔貌になることもあります。ベットに寝るときに動作が遅く時間がかかるようになったり、着替えに時間がかかることもあります。姿勢は、頭を少し前方に出し、膝を屈曲し、上体を前屈させています(図2)。歩行は遅く、小歩で、上肢の振れがありません。歩いているうちに勢いがついてきて止まれなくなり、倒れてしまうこともあります。立っているときに前や後ろから押されると姿勢を保つことがうまくできないので、すぐ転倒してしまうこともあります。歩き始めや歩いているときにに急に足がすくんで、歩き出すことができなかったり、立ち止まってしまうこともあります(すくみ足)。この他に、便秘や起立性低血圧(立位になると血圧が下がる)などの自律神経症状もあります。  

図2. パーキング病患者さんの姿勢

 治療は、脳の中で減っているドーパミンを補う薬を投与します。ドーパミンそのものは脳の中に入らないので、前駆物質のレボドーパを服用してもらいます。ドーパミンを受け取る受容体が線条体の細胞の表面にありますが、この受容体を刺激する薬も治療に使われます。この他、ドーパミンの放出を促進する薬や、コリン系を抑制する薬もがあります。
 
 パーキンソン病と腰痛
 岩本さんの腰痛は、パーキンソン病とどういう関係があったのでしょうか。考えられるのは、岩本さんは前屈姿勢であったことです。パーキンソン病患者さんは、上体を前屈していたり、どちらかの方向に脊柱が曲がっている(側弯)ことがよくあり、腰痛と関係があると考えられています。

 岩本さんは、腰が痛いので体を前方に屈曲させていると思っていました。痛みも関係あるかもしれませんが、パーキンソン病によって前屈姿勢であったと思います。腰痛のために整形外科で治療を受けている患者さんの中に、本当はパーキンソン病である人が時々います。腰痛があって、動作が以前より遅くなったり、体のバランスをとることが下手になったように感じたら、パーキンソン病のことも考えて神経内科を受診してみたらどうでしょうか。
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