脊髄の血管障害

脊椎・脊髄疾患と治療について

血管障害について(けっかんしょうがい)
Cerebral vascular disorder

脊髄動静脈奇形・脊髄動静脈瘻

これは脊髄を栄養する血管に奇形を来している場合と、脊髄を覆っている硬膜に奇形がある場合とがあります。脊髄を直接栄養している血管は脊髄の表面にあり、その血管に奇形があると塞栓を起こして脊髄梗塞を来す場合と奇形の血管が出血を来たし、脊髄内血腫やくも膜下血腫を呈します。
脊髄の血管障害は発症頻度が少なく稀ですが、中でも外科治療が必要となるのは、脊髄の動静脈奇形(どうじょうみゃくきけい arteriovenous malformation)です。通常、心臓からでた血液は動脈を通って、脳や脊髄などの組織に毛細血管となって入り、その後静脈を介して心臓に戻ってきます。しかし、何らかの原因で脳や脊髄などの組織を介することなく動脈が静脈に直接つながってしまうことがあり、このような病態を動静脈奇形といいます。脊髄では血流障害が生じることは稀ですが、その原因として最も多いのがこの脊髄動静脈奇形です。
脊髄動静脈奇形には、動脈と静脈がどこでつながるかによって大きく3つのタイプがあります。1つは脊髄を包む硬膜でつながっているもの(脊髄硬膜動静脈瘻 せきずいこうまくどうじょうみゃくろう spinal dural arteriovenour fistula(dAVF))、1つは脊髄の表面上でつながっているもの(脊髄辺縁部動静脈瘻 せきずいへんえんぶどうじょうみゃくろう spinal pial arteriovenour fistula(pial AVF))、もう1つが脊髄の中でつながり血管の塊をすくっているもの(脊髄髄内動静脈奇形 せきずいずいないどうじょうみゃくきけい spinal intramedullary arteriovenour malformation(AVM))です。

症状

脊髄梗塞や出血による障害のいずれも突然に疼痛や麻痺、感覚障害が出現することが多いと考えられます。無症状のものから、徐々にしびれや痛み、麻痺を呈するもの、突然そのような症状を呈するものまで様々です。症状がでる原因としては、多くは静脈の環流障害(つまり、静脈が交通渋滞をおこして脊髄がはれてしまうこと)が原因ですが、稀に出血し突然強い症状をだすものもあります。

診断

神経所見を診察し、MRI等を施行し脊髄梗塞や出血の診断をします。しかし、脊髄の血管は細かいためMRIだけでは診断は難しく、造影剤を用いたカテーテル検査が必要です。

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図1.頚椎MRIでは脊髄の周辺にプツプツとした小さな陰影がみられますが、詳細はわかりません。造影剤を用いたカテーテル検査(左椎骨動脈撮影)では異常血管が描出され、脊髄硬膜動静脈瘻であると診断出来ます。下記手術を行い、異常血管は消失しました。

治療

動脈と静脈がつながっている異常な部分、もしくは脊髄へ逆流している静脈の根もとの部分を閉塞する手術を行います。当科では、血管内治療グループと協力し、血管内治療(カテーテルによる治療)と、脊椎の骨に穴をあけて直接手術で治療する外科治療とを行っています。患者さんへの負担の大きさと、手術の確実性を各々で評価し、どちらの治療を行うか相談した上で決定しています。
カテーテルによる治療は、大腿の付け根から挿入したカテーテルを病変部まで誘導し、病変部を血管の中から塞いでしまうものです。血管が極めて細いため到達出来なかったり、重要な血管が近くからでている場合には危険であるため治療が行えないこともありますが、皮膚にメスをいれずとも治療を行える利点があります。
一方直達手術は、主にうつぶせで背中から脊椎の一部の骨を取り除き、そこから直接病変部へ至り、異常血管を遮断してくるものです。時に異常な血管のつながりが複数に及ぶこともあり、そのような場合には確実なものしか処置は行わず、手術後に再検査を行って再手術を行うこともあります。
いずれの方法であっても現在の医療水準では、特に脊髄辺縁部動静脈瘻や脊髄髄内動静脈奇形の治療は難しいのが現状です。

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図2.図1の直達手術。後方から脊椎骨をはずし、脊髄を包んでいる硬膜を露出した。ICGという特殊な薬剤を使い、血管を白く描出させ、流れを確認した。手術用のクリップで異常血管を挟み、異常な静脈の流れがないことを確認し、手術を終了した。

(2) 硬膜上動静脈奇形

一方、硬膜上に動静脈奇形がある場合には、発症のほとんどが硬膜外血腫の形になり、突然脊髄を圧迫し麻痺を来します。

診断

出血症例に対しては通常CT scanが威力を発しますが、この場合はCT scanでは診断がつかないこともあり、MRIとあわせて診断をする必要があります。血腫が認められたら血管撮影をし、奇形の診断をします。この場合も血管撮影では診断がつかず、手術所見により、あるいは手術時に提出した病理学的検査により確定診断されることもあります。

治療

手術により血腫除去を行う適応となることが多くあり、その症状は手術時機を逸しなければリハビリテーションによってかなりの改善をすることも多くあります。しかし、私たちの経験では自然経過で症状(多くは対麻痺・四肢麻痺)が数時間内に軽減あるいは消失する場合があるため、通常発症より12から24時間経過観察した後に摘出術の判断をいたします。