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細胞生物学- 細胞生物学部門(岩井研究室) -

研究理念 「免疫システムの理解を深め、医学に貢献する」

がん治療の革命を起こした免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(商品名:オプジーボ®)。2018年ノーベル生理学医学賞を受賞した京都大学本庶佑教授の研究室でニボルマブの開発を行った経験と、全国有数のがん拠点病院である日本医科大学ならではのアドバンテージをいかして、本研究室では、がん免疫療法の診断・治療法の開発に力を入れています。免疫応答はがんだけでなく、感染症、アレルギー、自己免疫疾患、生活習慣病などの病態や、生殖免疫、移植免疫などさまざまな生命現象に深く関与しています。本研究室では、免疫システムに対する理解を深めることによって、医学の発展に貢献したいと考えています。

本研究室に関連する記事

日本医科大学広報誌 OneHealth 第531号 (クリックするとPDFファイルが開きます)
日本医科大学 PICKUP CONTENTS (クリックするとリンク先が開きます)
・2018年ノーベル生理学医学賞プレスリリース (クリックするとPDFファイルが開きます)

 リンクPress release, リンクAdvanced information 


主な研究内容

1. これまでの研究: PD-1抗体ニボルマブの開発 (ノーベル賞秘話)

 医学に貢献する方法は医師になる以外にも道があります。研究者になって病気の原因を解明したり新しい治療法を開発できれば、医師として直接患者さんを診るよりも、もっと多くの人を助けることができるかもしれません。そのような夢に憧れて、私は医学部を卒業後、医師になるか、研究者になるか悩みました。そのときに出会ったのが本庶佑先生です。私は医師を辞めて、大学院生として本庶研究室に入り、研究者を志しました。

 そのころ本庶研では、長い間機能不明だったPD-1遺伝子が、免疫システムのブレーキ役として働いていることが、西村先生のノックアウトマウスの実験から明らかになりつつありました。そこで、私の研究テーマは、PD-1蛋白質の大量精製を行って、1)まだ不明だったPD-1のリガンドを探すことと、2)抗ヒトPD-1モノクローナル抗体を作ること、に決まりました。このとき作った5種類の抗ヒトPD-1抗体の一つが完全ヒト化されて、後のニボルマブになりました。

 一方、リガンドのスクリーニング実験で、PD-1リガンドは腫瘍細胞やウイルス感染細胞に発現していることに気がつき、がんや感染症への関与が予想されました。ここから先の研究を進めるにあたって苦労したことがあります。それは「CTLA-4」の壁です。PD-1とCTLA-4は、T細胞に発現する免疫抑制受容体で、Co-inhibitory molecule(共抑制分子)として、T細胞の免疫応答を負に制御します(当時はまだ「免疫チェックポイント分子」という言葉も概念もありませんでした)。PD-1より早期に発見されたCTLA-4の研究は常に先行していて、1996年にAllison博士によってCTLA-4抗体による抗腫瘍効果が報告されていました。このため、PD-1で似たような研究をしても二番煎じの状態でした。

 ここから逆転するには、CTLA-4抗体に対する優位性を示すしかありません。そこで私は、CTLA-4抗体では治らないがんがあること、CTLA-4抗体は副作用が大きく、転移における効果は不明なことに注目して、CTLA-4抗体単剤では治療効果のないB16メラノーマ腫瘍細胞を用いて、がんの転移実験を行いました。結果は驚くべきものでした。メラノーマが肝転移を起こすと肝臓は黒く腫大しますが、PD-1抗体を投与すると、転移は起こらず、肝臓は白いままでした。この白い肝臓をみてこれはひょっとしたらすごい薬になるかもしれないと思いました。さらにCTLA-4抗体でみられるような副作用もありませんでした。この白い肝臓の写真は、2018年10月1日のノーベル財団によるノーベル生理学医学賞発表記者会見で紹介されました。

 いつか自分の研究が医療の役に立つことを夢見て研究の道に飛び込みましたが、思いがけなく早く夢が実現して驚いています。開発したお薬によって多くのがん患者さんの命が救われるのを見て、研究者としてこの上ない幸運と喜びを感じています。

2. 今後の研究の展開 

 PD-1抗体は、他に治療法のない末期の進行性がんの約20~30%で治療効果を認め、画期的な新薬として世界的ながん治療のパラダイムシフトを起こしました。けれどもすべての患者さんに効くわけではありません。そこで私たちの研究室では、効く人を見分けられる診断法や、効かない人に対する新たな治療法の開発に取り組んでいます。

 興味深いことに、免疫応答には個人差があります。インフルエンザウイルスにかかっても、発熱する人もいれば、無症状の人がいるように、がんに対しても、自己治癒力の高い人もいれば、無反応の人もいます。ワクチンの原理となる免疫記憶に関しても、長期間安定して続く人もいれば、すぐに記憶がなくなってしまう人もいます。

 本研究室では、1)抗体の寿命(分解とリサイクリング)、2)免疫学的記憶という観点から、抗体医薬に対する感受性の違い(個人差)がどのように生まれるのか、そのメカニズムを解明したいと思っています。このメカニズムを解明できれば、万人に同じ方法で治療を行うのではなく、それぞれの体質に合ったオーダーメイドの良質な医療を提供することが可能になるのではないかと考えています。

                               (文責 岩井佳子)

研究テーマ

  • 1. T細胞免疫機能評価系の構築

免疫チェックポイント阻害剤の効果予測、T細胞関連疾患(がん、感染症、自己免疫等)バイオマーカーの探索

2. 免疫応答の個人差が生まれるメカニズム:抗体の寿命、免疫学的記憶応答

3.炎症性細胞の遊走