肥大型心筋症専門外来

1. 肥大型心筋症とは

 心臓の心室筋が不均一かつ不適切に肥大する病気であり、多くの場合遺伝性の原因が推定されています。疾患頻度は調査方法によりばらつきがあり、0.02~1.1%と報告されていますが、より信頼性の高い心エコー検査による全例調査によると、本邦では0.37%(約300人に一人)、米国で0.17%(約600人に一人)と比較的高い有病率が報告されています。

 多くの場合は無症状で経過し健康な方と同じように生活しておられますが、一部の方は心肥大により様々な症状を来たします。軽い方ではときどき胸の違和感を訴える程度ですが、ひどい方では階段や坂道で息切れや動悸が出現したり、立ちくらみや、重症な場合では心不全、失神、心臓突然死を発症することもあり、症状は様々で病気の進行スピードの人それぞれです。一般的に若年者で診断された肥大症心筋症はハイリスク症例が多く、中高年で診断された方は比較的予後が良いといわれています。これは、原因となる遺伝子が異なっていることによります。

 この病気は心電図や心エコーで心肥大を認め、高血圧や弁膜症などその他の原因で説明できない場合に診断されます。肥大型心筋症と診断された後は各種の検査を行い、リスクファクターの評価を行ったのちに治療方針を決定します。

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2. 閉塞性肥大型心筋症について

 肥大型心筋症では肥大した心筋が心室内の血流を妨げてしまうことがあり(左室内閉塞)、これを閉塞性肥大型心筋症として治療を行います。肥大型心筋症のうち約4人に1人がこの左室内閉塞を伴うと言われています。また、安静時には出現せず運動時や薬剤により出現する潜在性左室内閉塞を含めると、肥大型心筋症の半数以上に見られたという報告もあり、注意深い診察とエコー画像の読影が大切です。左室流出路閉塞・中流部閉塞・心尖部閉塞と様々な領域で閉塞することが知られており、左室内閉塞は労作時の息切れ・胸痛・立ちくらみ・失神などの症状を引き起こし、日常生活に支障を来たす原因となります。


日本医科大学付属病院 循環器内科 肥大型心筋症専門外来

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 初期は高度な閉塞があっても症状は軽微のことが多いのですが、罹病期間が長くなるにつれて肥大が進行し症状が悪化してくるケースが多々あります。一般的に進行は緩徐ですのでまずは薬物治療を行い症状の経過を見ていきますが、症状により日常生活に支障が生じる場合はPTSMAや外科的治療を検討します。一方で、これらの侵襲的治療を検討する前に適切な薬物療法を行うことが重要であり、また降圧剤・利尿剤・強心剤といった他の心疾患には有効な薬剤が病態を悪化させるため、特別な管理・指導が必要となるため注意が必要です。

 多くの場合は薬物療法で心臓の負担や症状を和らげることで治療していきますが、ハイリスクの方では一次予防として植込み型除細動器(ICD)の植込み術を行い、発生が予測できない危険な不整脈(心室頻拍・心室細動)に対応します。また、閉塞性肥大型心筋症の場合は、日常生活に支障をきたす症状が薬物でコントロールできない場合、左室内閉塞の原因となっている肥大心筋を縮小させる治療である、経皮的中隔心筋切除術(PTSMA)、外科的中隔切除術、を行うことで症状を緩和することが可能です。

・肥大型心筋症に合併する不整脈(心房細動・心室頻拍・心室細動)

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3.経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)

 外科的治療は開胸下で肥大心筋を直接切除することで左室内閉塞を解除する方法で、より確実な効果が期待できる治療ですが、開胸手術で侵襲度が高いことが手術を敬遠される要因となっています。

 近年、心臓病の治療では低侵襲なカテーテル治療が進歩していますが、この閉塞性肥大型心筋症に対しても1995年にイギリスのSigwart 医師により、経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)という肥大心筋をアルコールで焼灼し閉塞を解除する方法が報告されました(Lancet 1995; 346:211-14)元々、不整脈の治療で知られていた手法を本疾患にも応用したもので、その後世界中の多くの施設でPTSMAの有効性が確かめられました。当院はこの治療方法を20年近く前から全国の先駆けとして治療を行っており経験を重ねてまいりました。治療効果としては95%以上の方で症状の改善が得られ、約70%の方で症状がほぼ消失し健常人と同様の生活が送れるようになります。但し、アルコール焼灼に適した血管がない場合は治療が出来ません。また、3~5%の方に完全房室ブロックが出現しペースメーカー治療が必要となる可能性があります。


経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)の実際

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  術中の心臓超音波画像         左室内圧較差の変化       術後早期の心臓 MRI 画像

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 一時期、閉塞性肥大型心筋症に対してペースメーカー単独治療の効果が期待されていましたが、その後の検討では効果の確実性からはカテーテル治療や外科的手術には及びませんでした。しかしながら、カテーテル治療にブロックが合併した際はペースメーカー治療を併用することで症状を緩和することが出来ます。

 カテーテル治療の利点は傷口が小さく、身体的負担が少なく回復が早いことで、治療翌日より効果を実感することが出来ます。

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4.患者様・ご家族の皆様へ

 

 当科では肥大型心筋症専門外来を設立して、この病気のスペシャリストが治療にあたっており、様々な症状に対して各専門医と連携して総合的に診療し治療方針を決定することが可能です。まずは肥大型心筋症がどのような病気かを知って貰うために当院でお話しを聴いてみて下さい。可能であればかかりつけ医に治療経過などを記載した紹介状を作って頂けると円滑に診療を連携することが出来ます。また当院へ受診したのち病状が安定している患者様はお住まい近くのかかりつけの医療機関に通院しながら、年1~2回の定期検診を受けて頂くことも可能です。

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5. 実地医の先生方へ

  •  当院では、医療機関よりご紹介いただく初診患者さんのご予約をFAXにて承っております。ご都合の宜しい外来日を指定頂けましたら簡単に予約を取ることが可能です。
  •  また、受診できる日時が決まらない場合でも紹介状をお持ち頂けましたら、可能な限り速やかに対応させて頂きます。

●受診予約・変更方法につきましては、こちらをご覧ください。

●診療情報提供書宛名は以下の通りです。

〒113-8603 東京都文京区千駄木1-1-5                       日本医科大学付属病院 循環器内科 肥大型心筋症(HCM)外来担当医宛て

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6. 肥大型心筋症チーム 担当医

専門外来担当医
時田 祐吉
井守 洋一

心血管インターベンション、経皮的中隔心筋焼術担当医
時田 祐吉
井守 洋一
松田 淳也
石原 翔
小山 賢太郎

スーパーバイザー
非常勤講師 高山 守正(榊原記念病院 肥大型心筋症センター)
非常勤講師 高野 仁司(武蔵嵐山病院 病院長)

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