疾患の解説

慢性中耳炎

鼓膜に穴が開き、難聴とみみだれをおもな症状とする病気です。まず、薬による治療を行い、手術が必要と判断された場合には、鼓室形成術や鼓膜形成術を行い、難聴の改善・みみだれの停止を目指しています。
鼓室形成術は入院の上、全身麻酔で行っています。手術時間は一時間半から二時間程度、入院期間は14日前後です。
鼓膜形成術は鼓膜の穴が小さく、炎症の程度が軽い場合に行っています。外来で手術を行います。通常入院は不要です。

真珠腫性中耳炎

真珠腫性中耳炎は特殊な型の慢性中耳炎です。機能検査やCTなどの画像診断を行い、病態に応じた治療を行います。真珠腫をすべて取り除いて、さらに聴力を改善する手術を施行しています。手術は入院の上、全身麻酔で行っています。手術時間は2時間から2時間半程度で、入院期間は14日前後です。

伝音(でんおん)難聴

耳硬化症や耳小骨奇形などによる難聴は耳小骨に原因がある難聴です。アブミ骨手術や伝音再建術により難聴の改善が90%以上の例で期待できます。「あなたの難聴は治りません」と説明され、あきらめている患者さんの中に、このような疾患の方が含まれています。これらの疾患の診断が難しいからです。
難聴の種類、程度を的確に判断して、治療が可能か否かを判断する必要があります。当科では、聴力検査、画像診断、機能検査を施行し、正確な判断に努めています。

急性中耳炎、滲出性中耳炎

小児に多い中耳炎です。鼓膜の内側に膿がたまって耳が痛くなるのが急性中耳炎、液体がたまって聞えが悪くなるのが滲出性中耳炎です。薬による治療を行い、さらに鼓膜切開術や鼓膜ドレーンチューブ留置術の適応を決定しています。大きいアデノイドが原因の一つになっている場合には、手術でアデノイドを切除する場合もあります。

感音(かんおん)難聴

感音難聴は、聴力をつかさどる神経がダメージを受けて聞えが悪くなる難聴の総称です。
突発性難聴は、まったく耳症状がなかった人が突然に難聴を生じる病気です。ウイルスによる内耳障害、内耳の血管障害が原因と言われていますが、まだ原因すらはっきりしていません。突発性難聴などの内耳性難聴は一般的に手術では改善の望めないタイプの難聴です。主に薬物治療を行います。

外リンパ瘻(がいりんぱろう)

内耳の中を満たしているリンパ液が漏れ出して、難聴やメマイを生じる病気。力んだり、鼻を強くかんだり、頭部のけがなどが発症の契機になることが多いとされています。明らかなきっかけがなくても、突然発症する場合もあります。内耳の病気(難聴、めまい)はほとんどの場合原因がはっきりしないことが多いのですが、外リンパ瘻は原因がはっきりしていて、しかも手術(内耳窓閉鎖術)によって治すことができます。

高度感音難聴

メマイ

メマイは非常に発症頻度の高い症状です。症状は同一であっても、耳の病気(内耳障害)や中枢神経の病気(脳血管障害)など、原因は極めて多いため、診断が難しいことが少なくありません。また、メマイを生じたときに、どの科を受診すればよいかを迷う場合も少なくないと思います。当科では、昭和41年に専門的なメマイの総合的検査を行っています。
メマイを起こす病気としてメニエール病、突発性難聴、外リンパ瘻、前庭神経炎、良性発作性頭位メマイ症、さらに心因性メマイなどを診断し、検査結果から中枢神経系の病気が疑われる場合には、積極的にMRIなどの画像診断を行います。

  • メニエール病
    内耳のむくみ(内リンパ水腫)により、メマイと難聴をきたす病気。薬物療法と生活指導を行い、まずは保存的に治療します。保存的治療で改善しない場合には、鼓膜ドレーンチューブ挿入術、中耳加圧療法、手術療法を積極的に行っています。
  • 前庭神経炎
    前庭神経に急激な障害が起こることで、激しいメマイをきたす病気。激しいメマイが続くため、原則的に入院し、対症療法を行います。
  • 良性発作性頭位メマイ症
    内耳の障害により、頭を動かすたびにメマイ発作を繰り返す病気。自然に軽快する傾向のある病気ですが、症状の長引く場合には運動療法を行い、良好な治療成績が得られています。

顔面神経麻痺

顔面神経に障害をきたすことにより顔の動きが悪くなり、口から水がこぼれたり、笑うと顔がゆがむ病気。
原因不明(特発性顔面神経麻痺)のものが大多数を占めています。その他の原因にウィルス感染や外傷が原因になることがあります。当科ではさまざまな顔面神経機能検査、血液抗体検査、ウィルス検出検査を駆使して、診断や治療にあたっています。
治療としては、軽症の場合外来での治療、重症の場合入院治療を行っています。ステロイド剤や循環改善剤を用いた薬物療法を行っています。神経障害が高度で、薬物療法のみでは改善しない場合には、手術療法(顔面神経減荷術)を行う場合もあります。

鼻アレルギー・花粉症

くしゃみ、鼻みず、鼻づまりを特徴とする鼻の病気です。病気になる方はある特定の「抗原」と呼ばれる空気中に存在する物質に対して敏感になり抗体を作り、原因の物質と結合するとくしゃみ、鼻みず、鼻づまりが生じる疾患です。原因の物質は1年中のものではハウスダスト、ダニ、真菌、ペットの毛などがあり、季節性のものでは花粉があります。この花粉によるアレルギー性鼻炎を花粉症といい、中でもスギ花粉症は日本人の約20%が罹っている病気です。症状が強い場合には薬物療法、免疫療法、手術療法などの治療が必要です。免疫療法は従来から行われている皮下注射によるものと、注射をしない舌下免疫療法があります。舌下免疫療法は現在臨床研究中で保険診療はできませんが、研究に参加していただけるボランティアを募っています。

慢性副鼻腔炎

鼻腔の周りには顔の骨の中に、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞と呼ばれる4つの空洞があります。副鼻腔炎はこの空洞の中が炎症を起こす疾患で、急性のものは風邪に引き続いて生じます。慢性のものは急性が完全に治癒せず、徐々に炎症が強くなって生じます。鼻閉、粘性の鼻みずや咽に降りるハナ、嗅覚障害のほかに頭痛や微熱などの全身の症状が起こってしまいます。顔のレントゲンで診断がつきますが、詳しくCTなどの検査が必要な場合があります。慢性副鼻腔炎には鼻のポリープ(鼻茸)が合併することがありますので、この様な場合には手術が必要になることもあります。鼻閉の症状が強かったり、全身症状がある場合には医療機関の受診が必要です。

声帯ポリープ

声帯ポリープは、声を多く使う職業の方に多く認めますが、一度何らかのことで小さなポリ-プが出来て、声の出し難さのために無理して声を使っているうちに、更に大きくなったり、誤った発声方法が身に付いてしまうこともあります。治療は手術と音声療法を行います。手術は、“のど”の中から直達鏡という内視鏡を用いて行いますが、入院も数日で済みます。術後、発声方法の指導が必要な場合には、外来で継続して行います。

反回神経麻痺

反回神経麻痺とは、声帯の運動を司る神経の麻痺のために、声ガレやムセ、嚥下困難の原因という症状を呈します。頸部の手術後や大動脈瘤や肺の手術後などに発症することが多く、また、逆に反回神経麻痺から、それらの原因疾患が発見されることもあります。治療は、声帯を発声している時の状態に固定する手術と、コラーゲンなどを声帯内に注入する治療があります。手術治療は熟練を要しますが、手術自体は侵襲の少ないもので、局所麻酔下に行い、術後数日で退院できます。コラーゲンなどの注入療法は外来で、局所麻酔下に行います。患者さの状態などを見て最も適切な治療法を提示して行うようにしています。

嚥下障害

嚥下障害があれば、栄養分や水分の摂取に問題がありますし、口に入れた食事が気管に誤って入ってしまえば、肺炎や窒息を起す危険性があります。かといって、食事を禁止し、点滴や経管栄養で日々を過ごすことは非常に辛いことであります。嚥下障害の原因には、脳血管障害から、パーキンソン病などの神経・筋疾患、頭頸部腫瘍や食道腫瘍術後などと共に、高齢者の「寝たきり」そのものが原因となることがあり、これらが相互に絡み合って、更にひどい状態に進行することも多く経験するところです。また、逆に精査の結果、小さな脳卒中や神経・筋疾患が発見されたりすることもあります。嚥下障害の治療に際しては、全身管理をまず行いつつ、局所の問題に対処する、更には、在宅などでの継続治療を視野に入れて行う必要があります。当方では、嚥下機能訓練を中心的に行っており、状態によっては機能改善手術を行うこともあります。患者さご自身、家族の方々ともよく相談しながら、治療や訓練を行うように心がけています。

頭頸部良性腫瘍・頸部腫瘤

  • 耳下腺腫瘍
    耳下部に腫瘤が生じる疾患の中に耳下腺良性腫瘍が含まれます。診察とCTなどの画像診断、穿刺吸引細胞診で確定診断をする必要があります。耳下腺悪性腫瘍(癌)との区別は必要ですので、痛みがないからといって放置せず、耳鼻咽喉科に受診してください。当科でも充分対応します。

    腫瘍が耳下腺良性腫瘍であると確定診断された場合、手術で摘出することが、唯一の治療手段です。全身麻酔下に2~3時間の手術を行い、術後約一週間の入院が必要です。

    手術の合併症として、顔面神経が強調されますが、発生の頻度は決して高くはありません。他の合併症として唾液瘻やフライ症候群があります。

    手術前には充分なインフォームドコンセントを行います。手術についての疑問点、不安に思う点を解決してから手術に臨んでください。
  • 甲状腺腫瘍
    前頸部に腫瘤が生じた場合、甲状腺良性腫瘍の可能性があります。診察と超音波検査やCTなどの画像診断、穿刺吸引細胞診で確定診断をする必要があります。甲状腺悪性腫瘍(癌)との区別が必要ですので、長期間放置せず、耳鼻咽喉科を受診してください。当科でも充分対応します。

    腫瘤が甲状腺良性腫瘍と診断された場合、腫瘤の大きさと圧迫症状により手術をすべきかどうかを決めています。手術は、全身麻酔下に2時間前後の時間を要します。術後、約5~7日の入院を要します。

    手術の合併症として反回神経麻痺による嗄声(声がれ)が、一般に強調されていますが、発生頻度は決して高くはありません。また、術後の整容が気になるところですが、しわに沿った傷であり、あまり目立つことはありません。

    手術前には充分なインフォームドコンセントを行います。手術についての疑問点、不安に思う点を解決してから手術に望んでください。
  • 正中頸嚢胞
    首のほぼ正中で、“のど仏”の近くに球形の腫瘤(嚢胞)が形成される疾患です。腫瘤を自覚して気付く場合が多く、痛みなどの他の症状はありません。

    先天的な奇形に属する疾患で、手術により摘出することが唯一の治療法です。創の整容に充分配慮した手術を行います。全身麻酔で手術を行う場合、約5日間の入院期間を要します。

    悪性腫瘍を合併することが稀にあるため、腫瘤を自覚した時点で耳鼻咽喉科医に相談されることをお勧めします。
  • 側頸嚢胞
    首の側方に球形のしこり(嚢胞)が形成される疾患です。腫瘤を自覚して気付くことが多く、痛みがなく、触れるとよく動くのが特徴です。

    奇形に属する疾患であり、手術で摘出する必要があります。頸部に手術の傷が出来てしまうのが欠点ですが、創の整容には充分配慮して、手術を行います。全身麻酔で手術を行う場合、約5日間の入院期間を要します。

    ご本人で側頸嚢胞と考えている疾患でも、類似した症状で頭頸部癌の頸部転移や悪性リンパ腫などの心配な病気もあるため、気付いた時点で耳鼻咽喉科医に相談されることをお勧めします。

頭頸部悪性腫瘍

頭頸部悪性腫瘍とは耳鼻咽喉科領域に生じる悪性腫瘍の総称であり、代表的なものに喉頭癌、咽頭癌、舌癌などがあります。本邦では全がんの約 10 %と頻度が低く、診療には特殊な知識や経験を必要とするため、治療をどこの病院でも受けられる疾患ではありません。悪性腫瘍であるため、初回の治療が重要であるとともに、迅速な対応が必要です。

頭頸部癌診療の第一段階は適切な診断です。病理組織学的診断と病期診断が必要です。つまり、癌であるか?どのような種類の癌であるか?の診断をつけること、癌がどの程度まで進行しているのか?の診断をすることによって適切な治療方法を考えることになります。

頭頸部癌の治療に手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤)があることは、他の臓器の癌と同じです。これらが治療法の三本柱になっています。それぞれの癌の病理学的診断(癌の種類や悪性度)や病期(進行度)によって選択することになります。選択肢には、それぞれを組み合わせて行う方法もあります。

頭頸部進行癌に対する手術は、癌病巣の切除と切除された欠損部の再建手術により構成されています。多くの場合遊離組織移植を行います。遊離組織移植が安全に行われることにより、手術後の経過は劇的に改善されます。また、拡大切除が可能になり、癌の根治性も向上すると考えられます。以前は遊離組織移植の際に行われる微小血管吻合が特別な手技であるような考えがありましたが、今では頭頸部癌手術を行うにあたって必須な手技になっています。

頭頸部癌の治療で最近、化学放射線治療が多く用いられるようになってきています。抗癌剤を放射線治療と併用する治療法です。手術を行わなくても癌が根治でき、しかも治療後の QOL 低下が少ないことが期待されています。一次効果があることはわかってきていますが、その欠点や限界の見極めが重要であることも事実です。

頭頸部癌の治療を考えるとき、癌の根治性と同時に治療後の QOL を考えることは極めて重要です。頭頸部は本来、嚥下、発声、構音、咀嚼などの人間として生きるために重要な機能を有しているからです。治療によってそれらの機能には何らかの影響を受けることになるため、それらの治療による QOL 低下を勘案して治療法の選択を行うべきです。

頭頸部癌のために終末期をむかえることは残念ながら少なくありません。命の尊厳を考え、苦しむことが少ない最期をむかえることも重要です。頭頸部癌で終末期をむかえた場合、他の癌にはない問題があるため、それらを解決する努力は医師側にも、患者さ側にも必要になります。

説明を聞く患者さの側も最低限の知識を持った上で、担当医にアドバイスを受けた方が理解しやすいと思います。以下に、各癌の特徴と用語の解説を記載します。