くも膜下出血と脳動脈瘤

くも膜下出血と脳動脈瘤(くもまくかしゅっけつ、のうどうみゃくりゅう)の治療について
Subarachnoid hemorrhage / Cerebral aneurysm

概要

くも膜下出血の原因となる病気としては脳動脈瘤が最も多く、それ以外に脳血管奇形、脳腫瘍、頭部外傷などがあります。一般的に言われるくも膜下出血は脳動脈瘤(脳血管の瘤(こぶ):血管の一部が風船の様に膨れた部分の事)の破裂によるものがほとんどです。そのため、この項目ではくも膜下出血とは脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を示すものとします。
くも膜下出血の手術治療法としては主に二つの治療法があります。これはそのまま、脳動脈瘤の治療法であります。いわゆる、外科手術として行われるクリッピングと、カテーテルを用いた治療であるコイリングがあります。どの様な治療方針を取るかは、動脈瘤の形、大きさ、場所、患者さまの既往症などを考慮していきます。日本医科大学付属病院では、高度救命救急センターを含めて、都内でも指折りの症例数のくも膜下出血の患者さまの治療にあたっています。
さて、くも膜下出血がとても有名な病気であるのは、その予後が極めて悪いからです。今現在もくも膜下出血の患者さまの1/3 から1/2 の方がお亡くなりになるか、重度の後遺症を残しています。その原因にはくも膜下出血によって直接脳損傷が起きる事に加えて、出血してから1週間ぐらい経過してから起きる、脳血管攣縮(レンシュク)という合併症があるからです。脳血管攣縮とは、脳の血管が出血に刺激されて細くなってしまう事を言います。これにより、脳血流が低下し、脳梗塞を引き起こし、後遺症を起こします。このようにくも膜下出血の治療とは、脳動脈瘤の治療に加えて、出血による脳損傷の治療、脳血管攣縮の治療など手術治療のみがその治療の効果を示すものではありません。

1.未破裂脳動脈瘤

(1)未破裂脳動脈瘤ってなに?

脳動脈瘤とは、脳の動脈の分岐部がこぶのようにふくらんだものです。脳動脈瘤は生まれつきあるものではなく、何らかの成因によって後天的に出来るとされています。一般的に脳動脈瘤があることによってなんらかの症状を出すことは稀ですが、脳動脈瘤が破れてしまうと、くも膜下出血をおこします。くも膜下出血をおこす前に発見された動脈瘤が未破裂脳動脈瘤(くも膜下出血とほぼ同じ意味)です。

(2)未破裂脳動脈瘤って診断されるのは?

以前は脳動脈瘤が破裂する前に診断されることは稀でした。しかし、現在ではCT/MRIなどの診断技術が発達し、破裂してくも膜下出血をおこす前に発見されることが多くなっています。頭痛やめまいなどの検査、脳ドックなどで偶然発見されることがほとんどです。

(3)未破裂脳動脈瘤がみつかったら?

脳動脈瘤があることにより症状を出すことは稀ですが、破裂するとくも膜下出血をおこします。くも膜下出血をおこしてしまうと、30~50%の方が命をおとしてしまうといわれています。未破裂脳動脈瘤が見つかると、破裂しないような処置が必要となる場合があります。

(4)動脈瘤はいつ破裂するの?

残念ながら、動脈瘤の破裂を予測することは困難です。しかし、世界中から未破裂脳動脈瘤の破裂頻度について、様々な報告がされており、年間の破裂頻度は1~2%とされています。これは一般的な数字ですので、動脈瘤の大きさ、部位によって実際の破裂頻度は異なります。

(5)治療方法は?

動脈瘤の破裂を防ぐには、二つの方法があります。
ひとつは従来より行われている開頭手術です。これは、頭皮を切開し、顕微鏡を使って直視下に動脈瘤を観察することにより、金属性のクリップを使って動脈瘤をつぶす方法です。一般的にクリッピング術を呼んでいます。もうひとつは血管内治療です。これはカテーテルという細い管を動脈瘤の近くまですすめ、プラチナコイルで動脈瘤をつぶす方法です。一般的に、コイリング術と呼んでいます。
動脈瘤の場所、形、大きさは様々ですので、開頭術に適した動脈瘤、血管内治療に適した動脈瘤があります。

(6)手術は怖くない?

それぞれの治療には危険性がないわけではありません。開頭術では、手術後に出血や脳梗塞を起こしたり、ばい菌が入って感染したりすることもあります。また、全身麻酔で行いますので、麻酔の危険性も伴います。ご高齢の方ですと、手術の負担により、内臓に障害をおこすこともありますので注意しなければいけません。血管内治療でも、治療後に脳梗塞を起こすことがあります。動脈瘤の大きさ、形はそれぞれ異なりますし、患者さまの健康状態も大きく異なります。治療方法を考えるには、これらのことを考慮して、それぞれの患者さまに最も適した治療方法を選択しなければなりません。

治療

未破裂脳動脈瘤の治療は上記のようなさまざまなことを考慮して検討されなければなりません。担当の医師と十分に話し合い、決定されることをお勧めいたします。
日本医科大学脳神経外科教室は、それぞれの治療の専門家が、皆様の立場にたってご相談いたします。脳動脈瘤と診断されたら、一度、ご相談にいらしてください。

2.巨大脳動脈瘤(くも膜下出血の原因になる病気です)

症状

直径2.5cmより大きい動脈瘤を巨大脳動脈瘤と言います。巨大脳動脈瘤の治療は以下のような理由で治療が困難です。巨大であるため、1個のクリップで完全に動脈瘤を消失させることが困難です。
動脈瘤内部に血栓(血の塊)が存在していることが多く、クリッピング術の際に、血栓が破綻して流れ出し正常血管内に詰まると脳梗塞を起こす可能性があります。巨大であるため、正常血管が動脈瘤本体から分岐していることが多く、クリッピング術の際に正常血管を温存することが困難です。

治療方針

巨大脳動脈瘤に対する、私たちの治療戦略は以下の通りです。まずクリッピング術が無理なく可能かどうかを検討し、可能であればクリッピング術をお勧めします。
無理であれば動脈瘤頚部のクリッピングに拘らず、以下に示しました血管吻合術を利用して正常血管の血流を維持したうえで、動脈瘤の前後で血流を遮断し破裂しないようにします。巨大脳動脈瘤の治療は、一筋縄ではいかないことが多いのですが、私たちは様々な方法を用いて治療しています。 動脈瘤に入る血管を結紮して閉塞し、脳の血流はバイパスの血管にて流れています。

fig_12

fig_13

私設サイト

「脳神経外科学教室」

診療科では、独自のより細かな情報提供のために、私設サイトを運営しております。ぜひ、ご覧ください。