冠動脈バイパス手術

冠動脈とは心臓に血液を供給する栄養血管のことで、主として心臓の表面に近いところを走行します。その径は約1~3mmと非常に細い血管です。動脈硬化のため冠動脈が狭窄したり閉塞することによって血液の供給が低下すると心臓の収縮力も低下します。狭心症、心筋梗塞がこれにあたり、総称して虚血性心疾患と呼ばれます。狭くなったり閉塞した血管に再び血流を取り戻す手術を血行再建術と呼びますが、これにはカテーテルを使って血管の中から治療するPCIと言う方法と、外科手術によってバイパス血管(グラフトと呼びます)を血管外から設置する冠動脈バイパス術とがあります。

冠動脈バイパス術に使用する血管(グラフト)“冠動脈バイパス術”は、車の渋滞を解除するために新たな脇道を作る道路のバイパスと同じ原理です。これにより、血流の少なくなった部位により多くの血液を供給して心臓の障害を改善させます。
新しい血管(グラフト)として使用されるのは前胸部のちょうどズボン吊りの紐に相当する部位の内側にある左右の内胸動脈、胃の周りにある右胃大網動脈、肘と手首の間にある橈骨動脈、下肢の静脈である大伏在静脈があります。内胸動脈と右胃大網動脈は動脈全体をブラブラにして根本は切らずに先端を切って冠動脈につなぎます。橈骨動脈と大伏在静脈は必要な長さを切り取って、片側を大動脈につなぎ、もう片側を冠動脈につなぐようにして使います。

術後26年経過したバイパスグラフトこれらのグラフトの中でも内胸動脈は長期(10年~20年、或いはもっと:図)に亘って血流を供給してくれる血管であることがわかっており、内胸動脈を最も大切な冠動脈である左前下行枝にグラフトとして使うことで患者さんの生命予後は確実に改善されます。私達の施設では必要があればすべての患者さんに内胸動脈を使用します。約80%の患者さんでは両側の内胸動脈を使用しております。
内胸動脈と併せて、右胃大網動脈や橈骨動脈等の動脈グラフトを積極的に使用することによって再び狭心症や心筋梗塞の発作を起こすことが無くなるような手術を行うことをこころがけております。

オフポンプバイパス手術

冠動脈バイパス術は、非常に細い血管を吻合しなくてはならないため、人工心肺という装置を使用して心臓を停止して行うのが一般的な方法ですが、1990年代後半から人工心肺を使用せずに心臓を停止させず心拍動のままで血管をつなぐ“オフポンプバイパス術”が可能となりました。
オフポンプバイパス術は人工心肺を使用しないため、人工心肺に起因する合併症、特に脳梗塞などの脳合併症を少なくすることが可能です。また、80才以上の高齢の患者さんやさまざまな余病をお持ちの患者さんには特に有用です。私達は、年間約100例の冠動脈バイパス術を行っておりますが、ほとんどすべてのバイパス手術をオフポンプ手術で行っております。逆に、“オフポンプ冠動脈バイパス術”により今までは手術を受けるのが難しいと考えられた高齢の方々にも手術をすることが可能になったといえます。高齢化社会の進行に伴い、私達の施設では手術を受ける患者さんの平均年齢は現在70歳を越え、10%以上の患者さんが80歳以上になっております。

川崎病冠動脈瘤に対する外科手術

川崎病は小さなお子さんに発症する原因不明の熱性疾患で、心臓の合併症を引き起こすことが知られております。冠動脈に巨大な瘤(こぶ)が出来てその中に血栓が充満し、重症になりますと心筋梗塞へと進展して突然死の原因にもなります。このような川崎病冠動脈疾患に対して重症な場合は冠動脈バイパス手術が有効な治療法となります。身体の大きな成人とは異なり13才のお子さんの身体は小さく冠動脈も内胸動脈も1mmあるかないかの細さですが、私達は小児科の先生からの依頼があれば積極的に冠動脈バイパス術を行っております。川崎病冠動脈疾患は稀な疾患であること、小さいお子さんの冠動脈は非常に細いことから技術的難度が高く、川崎病冠動脈疾患に対して冠動脈バイパス術を行っている施設は本邦において少ないのですが、1990年代から多くの川崎病後遺症のお子さんを診ている小児科の小川俊一教授と連携して積極的に外科治療に取り組み、全てのお子さんに内胸動脈を使用して良好な結果を得ております。

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