放射線治療

診療内容

当科では、担当する各診療科と連携し、多くのメディカルスタッフとともに患者さんの気持ちに寄り添い、最大限の効果を引き出しつつ体に優しい放射線治療を行っています。一般的な放射線治療は外部照射と呼ばれているもので、大型の放射線治療装置から発生する放射線を照射して治療されます。外部照射は基本的には1日1回で平日毎日おこなわれ、照射回数は腫瘍の種類や病状によって検討することになります。外来通院で放射線治療を受けていただく患者さんの場合には、少なくとも1週間に1回は当科医師の診察を受けていただき、医師の診察がない日は放射線治療室で看護師が対応し、日々の変化を慎重に見ながら放射線治療をすすめていきます。また、入院で治療を受けていただく場合には、入院担当の診療科の医師と相談しながら放射線治療を行います。

当科で放射線治療が行われている疾患

悪性腫瘍

全身の多種多様な疾患に対応しています。

  • 頭部腫瘍(悪性脳腫瘍:悪性神経膠腫、胚細胞腫、眼・眼付属器腫瘍 など)
  • 頭頸部癌(咽頭癌、喉頭癌 など)
  • 胸部の悪性腫瘍(肺癌、食道癌、乳癌 など)
  • 腹部・骨盤部の悪性腫瘍(子宮癌、前立腺癌、膵癌 など)
  • 皮膚・骨軟部の悪性腫瘍(悪性骨腫瘍、皮膚癌 など)
  • 血液・造血器腫瘍(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫 など)

    良性疾患

    • 良性腫瘍(脳腫瘍、脊髄腫瘍 など)
    • 非腫瘍性疾患(ケロイド、甲状腺眼症 など)

      放射線治療の目的

      悪性腫瘍のどの進行期でも放射線治療が果たす役割があります。

      • 根治的治療(治ることを期待した治療;状況により手術や化学療法を併用)
      • 緩和的治療(がんの制御を期待せず;症状を軽減させるのを期待した治療で種々の転移(脳転移、骨転移、リンパ節転移)や再発などが対象)

      当科で行われている放射線治療

      外部照射

      • 従来通りの外部照射(エックス線照射、電子線照射)
      • 高精度放射線治療
      • 定位放射線照射(STI; Stereotactic irradiation)
      • 強度変調放射線治療(IMRT; Intensity Modulated Radiation Therapy)
      • 画像誘導放射線治療(IGRT; Image Guided Radiation Therapy))

      密封小線源治療

      従来通りの密封小線源治療(腔内照射、組織内照射)
      画像誘導密封小線源治療(IGBT; Image Guided Brachytherapy)

      特殊な超大型の治療装置が必要な粒子線治療はできませんが、それ以外の放射線治療は実施しています。ただし、粒子線治療の臨床経験のある医師が在籍しており、メリット・デメリットについて説明ができます。このように、当科では、各種の専門的な放射線治療のご紹介をお受けするだけでなく、放射線治療を中心としたがん治療についてのご相談(セカンドオピニオン等)をできるだけ迅速にお受けするようにしています。


      放射線治療を行う時の考え方・実施可能な放射線治療

      放射線治療

      外放射線治療の方針は、一般的ながんの場合には、各種がんの診療ガイドラインや放射線治療計画ガイドラインなどを中心に科学的根拠に基づいた医療(EBM; Evidence-Based Medicine)を実践しています。一方で、科学的根拠に乏しい症例数の少ない種類のがんや特殊な状況のがんの場合には、広く論文等の報告をもとに紹介元の病院や診療科ともよく相談することで、放射線治療を含めた、できるだけ高い治療効果が期待でき、体に優しい治療ができるように努めています。

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      従来通りの外部照射

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      がん細胞が塊となっている部分を中心にがん細胞が細胞レベルで進展している範囲を、詳細な診断画像や身体所見をもとに放射線治療用CT上で3次元的に手術レベルの緻密に描画し、その標的に対して放射線のビームを照射する方向などの放射線治療法を決定します。この計画した放射線治療法どおりにコンピュータ制御で大型の治療装置(ライナック)から放射線のビームを照射します。

      定位放射線照射(STI; Stereotactic irradiation)

      狙い撃ち照射の代表的な放射線治療で、小さめの腫瘍に対して3次元的に多数の方向から放射線治療を行う方法です。がんの進展範囲である照射する標的の決め方は、従来通りの外部照射と一緒ですが、より多数の方向から放射線治療を行うことで、周囲正常組織の放射線の投与線量を低減することが可能です。脳腫瘍(良性)、脳転移、早期肺癌、肝癌などで、転移がなくサイズの小さな腫瘍に行います。腫瘍の大きさや個数などによって健康保険の適応が制限されていますが、正常組織への線量低減が可能で、腫瘍により高線量の投与ができるため、従来の外部照射よりも高い効果が期待できます。

      houti3写真3:高線量率小線源治療装置

      強度変調放射線治療(IMRT; Intensity Modulated Radiation Therapy、          VMAT; Volumetric Modulated Arc Therapy)

      高精度放射線治療(狙い撃ち照射)の一つで、腫瘍に合わせたいびつな形状に照射されるように治療装置からのビームをコンピュータでリアルタイムに制御し、腫瘍に線量を集中させて腫瘍周囲の正常組織への投与線量をできるだけ低減させることが可能な方法です。がんの進展範囲である照射する標的の決め方は、従来通りの外部照射と一緒ですが、定位放射線照射よりも大きめの腫瘍にも実施可能であり、さらに腫瘍内に正常組織が入り混むような場合にも、IMRT/VMATでは凹んだ形で高線量を投与することができるため、定位放射線照射よりも多くの患者さんに適応することができます。

      houti4写真3:高線量率小線源治療装置

      なお、リアルタイムで照射する形状を制御する放射線治療法であるため、体内での腫瘍の移動範囲が大きい場合にはあまり適さないと考えられておりますが、当科では呼吸の移動については呼気・吸気の状況を把握可能な4D-CT(4th Dimension-CT)で治療計画を実施したり、腹部圧迫器具を用いて呼吸の深さを抑制したりすることで、腫瘍の移動範囲を小さくすることで適応を拡大する工夫をしています。ただし、健康保険の適応が『限局性固形悪性腫瘍』となっていることから、遠隔転移や離れた部位のリンパ節転移がない、前立腺癌、頭頸部癌、悪性脳腫瘍、肛門癌、子宮頸癌術後照射、などを主として、体内移動を検討した上で肺癌や食道癌等まで適応としています。このように健康保険の適応上で治療可能な症例は制限されてしまいますが、正常組織への線量低減が可能で、腫瘍により高線量の投与ができるため、従来の外部照射よりも高い効果が期待できます。

      画像誘導放射線治療(IGRT; Image Guided Radiation Therapy)

      放射線治療では可能な限り正しい部位に照射することが重要です。高精度放射線治療である定位放射線照射(STI)や強度変調放射線治療(IMRT, VMAT)で狙い撃ちをしても、実際の放射線治療時の照射位置がずれてしまっては、治療効果が保持されないだけでなく副作用も増加してしまいます。当科では、放射線治療装置に付属しているCTを用いて治療前に腫瘍の位置がわかる画像を取得し、照射部位と腫瘍位置のズレがないかどうかを確認した上で照射を開始することで、より正確な放射線治療を実践しています。定位放射線照射(STI)や強度変調放射線治療(IMRT, VMAT)に画像誘導放射線治療(IGRT)を併用することで、高い治療効果で軽い副作用を目指した放射線治療を行っています。

      houti5写真3:高線量率小線源治療装置

      密封小線源治療

      密封小線源は、放射線が発生する小さな物質であり、放射線同位元素とも呼ばれています。この密封小線源をがん病巣に直接刺入・挿入することで、外部照射よりがん病巣に集中的に強力的な放射線を照射することが可能となります。体内に密封小線源を直接挿入しないと治療ができないため、舌癌を中心とした口腔癌、子宮頸癌を主とする婦人科癌、前立腺癌、などの疾患が適応となります。侵襲的な治療ではありますが、これらの疾患はこの密封小線源治療を行うことで、手術と同程度の治療成績が得られるだけでなく、手術が困難なほど大きくなった腫瘍にも治癒を目指した治療が検討できるほどです。一方で、密封小線源の刺入・挿入には痛みを伴うような侵襲的手技が必要ですので、根治を目指した症例に行うことがほとんどです。

      子宮頸癌の密封小線源治療(腔内照射)

      子宮頸癌は外部照射と密封小線源治療を併用することで手術と同程度の治療成績が得られ、手術が厳しいような進行した症例にも化学療法を併用することで、治癒を期待できることも少なくありません。
      さらに、この子宮頸癌の腔内照射時にMRIを撮像することにより、腔内照射時の腫瘍範囲を同定することで、放射線をより腫瘍に集中的に照射し、正常組織への投与線量を低減することを目指しています。

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      本邦では、前立腺癌に50-100個程度のI-125シード線源(ヨード線源)を前立腺全体に刺入・挿入することで放射線治療が行われます。前立腺内から直接照射されるため、放射線の集中性が高くなり、正常組織に照射される線量が低減するため、強度変調放射線治療(IMRT)よりも多くの線量が投与でき、より高い制御が期待されています。しかし、線量集中性が高いため、前立腺周囲までがんが進展している症例に対しては、高い線量が届かなくなるため、強度変調放射線治療(IMRT)のほうが望ましいと考えられています。

      このように、I-125シード線源永久挿入療法にも強度変調放射線治療(IMRT)にもメリットとデメリットがあり、当科ではこれらを考慮し、泌尿器科と協働して治療法を選択・実施しています。

      当科で行っている研究

      • 原発性肺癌(早期)に対するSTIの有用性に関する研究
      • 局所進行原発性肺癌に対する放射線治療と呼吸機能障害との関係の検討
      • 頭頸部癌に対するIMRTの有害事象軽減に関する研究
      • ウイルス誘発頭頸部癌と放射線感受性との関係の検討
      • 子宮頸癌のIGBTの有用性に関する研究
      • 悪性脳腫瘍に対する最適な照射範囲と投与線量の検討

      お問い合わせ

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