ペリサイトは、毛細血管などの細い血管の内皮細胞を被覆する壁細胞であり、血管構造の安定化に重要な役割を果たしています。一方、創傷などにより組織が虚血状態に陥ると、それを解消するために血管新生が誘導され、新たな血管網が形成されます。これまで、血管新生の際にはペリサイトが血管壁から乖離し、内皮細胞の出芽を促すことで新しい血管が形成されると考えられてきました。しかし、こうした過程を生体内で直接観察した報告はなく、血管新生過程におけるペリサイトの実際の役割は不明でした。

私たちは、血管内皮細胞およびペリサイトを蛍光タンパク質で可視化した遺伝子改変ゼブラフィッシュを用い、成体皮膚における創傷治癒過程の血管新生をライブイメージングにより解析しました。その結果、血管新生が誘導されてもペリサイトは血管壁から乖離せず、むしろ血管を被覆しながら増殖することが明らかになりました。

さらに、ペリサイトの機能を検証するために、成魚でペリサイトを特異的に消失させるシステムを構築し、血管新生を誘導しました。その結果、ペリサイトが存在しない条件では、内皮細胞の出芽や増殖が亢進し、過剰な血管網が形成されました。また、血管枝の伸長方向が乱れ、異常なネットワーク構造を示すことも確認されました。

これらの結果から、ペリサイトは血管新生過程において、内皮細胞の増殖や出芽、遊走などの動態を巧みに制御し、機能的な血管網の形成を導く重要な役割を果たしていることが明らかになりました。今後、この制御機構の分子メカニズムを解明することで、がんや糖尿病網膜症など、異常な血管新生を伴う疾患に対する新たな治療法の開発につながることが期待されます。

原著論文

Pericyte-mediated regulation of angiogenesis during cutaneous wound healing in adult zebrafish.
Ishii T. Yuge S. Ando K. Zhou W. Fukuhara S.*
Communications Biol. 8, 1101 (2025). doi: 10.1038/s42003-025-08517-7.