再発・転移

頻度

乳癌と診断された場合、治療後の再発・転移の危険性は少なからずあります。しかし、その危険性は乳癌の性質や治療法によって異なり、さらに、治療法の進歩により再発・転移の頻度も年々低下してきています。不必要な心配を避けるためにも、再発・転移の危険性をある程度正確に知る必要性があります。
乳癌が再発・転移しやすい臓器は、局所では温存した乳房、皮膚、リンパ節(腋窩、鎖骨上下、内胸、縦隔)、筋肉、遠隔臓器では骨、肺、胸膜、肝臓、腹膜、脳などです。
遠隔臓器転移は治癒することが難しいと考えられており、そのような転移を早く見つけて治療しても、また、遅れて治療を開始しても最初の手術からの生存期間には変わりがないという臨床試験の結果があります。この結果から多くのガイドラインでは遠隔臓器の検査を症状がないときに行うことは推奨されておりません。しかし、治療法が進歩した昨今、遠隔臓器転移を早く見つけることが生存期間の延長に寄与する可能性も否定できません。これについては今後も検討が必要と思われます。
一方、局所再発は早期発見により治癒する可能性があります。したがって、局所の検査として、1年1回のマンモグラフィまたは超音波検査を行うことは強く勧められます。温存した乳房内のおおよその再発率は、乳房への放射線治療を受けた場合、術後1年間で0.5%、術後10年間で5%と報告されています。

診断

再発・転移には自覚症状がある場合とない場合があります。自覚症状はそれぞれの臓器の症状ということになります。胸壁または乳房ではしこり、皮膚の発赤、骨では痛み、肺または胸膜では咳、肝臓では肝機能の異常などです。自覚症状がない場合、医師の触診、マンモグラフィ、超音波検査、胸部単純写真、CT、血液検査の腫瘍マーカーなどで発見されます。前述したように遠隔臓器の検査は推奨されておりませんが、胸部単純写真は一般の健診で行われており、また、腫瘍マーカーは血液検査という比較的簡便な方法のため、実地臨床で行われていることが多いと考えられます。腫瘍マーカーは画像診断で異常が出る前に上昇することもありますが、一方、再発・転移でなくとも上昇すること(偽陽性)がありますので、注意が必要です。

治療

温存した乳房、皮膚、リンパ節、筋肉の再発は切除可能であれば手術が行われます。このような局所再発に手術、放射線治療、薬物療法が行われ、完治する可能性もあります。
一方、骨、肺、肝臓などの遠隔臓器の転移は治癒することは難しいと考えられています。生命の危険性がある場合、まず化学療法が行われます。化学療法はこれまでに使っていない薬剤を用いることが推奨されます。原則として、単剤で治療することが多いのですが、二つまたはそれ以上の薬剤を組み合わせて行う場合もあります。効果があり、副作用が問題とならなければ、同じ治療を継続します。効果がなければ、別の化学療法薬剤に変更します。
骨転移がある場合、デノスマブまたはビスフォスフォネート{ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ)、アレドロン酸(商品名:アレディア)}が投与されます。ビスフォスフォネートは骨基質に沈着し、破骨細胞による骨吸収を抑える働きがあります。破骨細胞の作用を抑えるということではランマークと同じ働きをします。これらの薬剤は、齲歯がある場合、顎骨壊死という独特な副作用が起こることがあり、注意が必要です。
生命の危険性がない場合、ホルモン受容体が陽性であれば、ホルモン療法が行われます。ホルモン療法はこれまでに使っていない薬剤を用いることが推奨されます。原則として一種類の薬剤で治療することが望ましいと考えられます。ただし、ハーセプチン、カペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムなどとは併用する場合もあります。また、骨転移の場合、デノスマブやビスフォスフォネートと併用します。効果があり、副作用がなければ、同じ治療を継続します。効果がなければ別のホルモン療法薬剤に変更します。

緩和ケア

生命の危険性がでてきたにもかかわらず、治療の効果がなくなった場合、治療による副作用に耐えられないと考えられた場合、薬剤によってかえって生命の危険性が増してしまうと考えられた場合、治療を終了し、症状を緩和する支持療法に移行する必要性があります。呼吸困難、疼痛、不安など様々な症状に対して、精神的ケアや薬物療法により、苦痛のない安らかな状態を保つことを目指します。