鬼怒川堤防決壊に伴う洪水災害に対する
日本医科大学付属病院DMAT隊活動報告

この度は、平成27年9月9日(水)に発生しました関東・東北豪雨にともなう鬼怒川堤防決壊により被災されたみなさまに、心よりお見舞い申し上げますと共に、みなさまの一日も早い復興をお祈り申し上げます。
本学では、茨城県常総市洪水災害に対し、9月11日に日本医科大学付属病院DMAT隊が派遣され、災害現場にて救援活動を行いましたので以下のとおり報告いたします。

【災害概要】
平成27年9月9日に台風第18号が愛知県に上陸し、その後日本海へ進み温帯低気圧に変わりました。温帯低気圧および台風第17号から湿った空気が流れ込み、形成された線状降水帯が東日本、特に関東および東北地方に留まったため、同地域では長時間にわたり激しい降雨に見舞われ、記録的な大雨となりました。東日本の多くの河川は危険水域を超える状態となり、9月10日午後0時50分過ぎ、茨城県常総市を流れる鬼怒川の堤防が決壊し(写真1)、鬼怒川と小貝川に挟まれた常総市の東西約4 km、南北約18 kmにおよぶ40平方キロメートル(国土地理院発表)が浸水し、床上浸水4,400 戸、床下浸水6,600 戸、断水・停電12,000 戸、死者2名、行方不明 15名の被害を出しました(9月13日時点)。避難者数は3,800 名におよび、多くの住民が浸水地域内に取り残され、孤立することとなりました。また、茨城県内の社会福祉施設25箇所が浸水し、常総市内の2箇所の病院が床上浸水にて診療不可能な状態となり、病院避難(入院患者全員避難)を余儀なくされました。

写真1 茨城県常総市 鬼怒川防波堤決壊箇所

【災害救援活動】
上記洪水被害に対し、9月11日 午前6:00 厚生労働省医政局DMAT事務局より、東京・千葉・埼玉・神奈川DMATに出場待機要請が発令されました。
午前7:20 日本医大付属病院 横田裕行高度救命救急センター長は、医療救護班を派遣することを決定し、午前8:00 派遣メンバー(高度救命救急センター講師 増野 智彦、同助教 山名 英俊、同看護係長 内海 清乃、付属病院初期研修医 藤本 将友、東京消防庁委託研修生 緒方 翔一)が付属病院へ参集、午前9:00災害地へ向け出発しました(写真2)。出場途上、東京都福祉保健局より、日本医科大学救護班は日本DMAT隊として活動をするよう指令を受け、増野講師と内海看護係長DMAT隊員として、山名医師、藤本医師、緒方救急救命士がその補助として隊が構成されました。また、筑波メディカルセンター内災害拠点本部より、日本医大DMAT隊は、常総市の南に隣接する守谷市内にある前川製作所(ヘリによる被災民救出拠点および臨時救護所)での救護所統括支援および救護活動にあたるよう指示を受けました。
午前10:00前川製作所に到着。先着DMAT隊に到着を報告し、現状の説明を受けた。早朝より現場には、浸水地域に取り残された多くの孤立住民の方々が、自衛隊・海上保安庁・消防・警察などのヘリにて続々と救出・搬送されていました(写真3)。

写真2 日本医科大学付属病院DMAT出場メンバー(左から内海看護係長、藤本医師、増野講師、山名医師、緒方救急救命士) 写真3 ヘリにて続々と救出されてくる孤立住民の方々

前川製作所には既に救護用テントが設営されていましたが、ここで活動を行っていたのは地元茨城県水戸協同病院DMAT一隊のみ(医師1,看護師3,業務調整員1)でした。そこで、先着していた水戸協同病院医師を引き続き現場統括本部長、増野講師が統括副本部長を務めることとして組織を再編成、他のメンバーで救出された住民の健康状態をチェックし、内海看護師が救護テント内の患者管理を行う体制を構築しました。多くの救出者の健康状態は安定していましたが(写真4)なかには在宅医療を受けている方や被災で衰弱した方々もおり、避難所での生活が困難と判断した要救護者は、近隣医療機関へ収容を依頼しました。また、透析治療中の方、妊婦、浸水による負傷、低体温症をきたした方などもおり、救護所に収容し治療を行い、その後の医療機関受診の調整を行いました。

常総市内には浸水により診療継続困難となった医療機関が2箇所存在することが確認されました。同施設から入院患者避難(全入院患者の移送)を行うことが災害対策本部で決定され、重症患者は前川製作所を経由して搬送するとの連絡が入りました。まず比較的全身状態の悪い9名がボートにて救出され、非浸水域である大和橋袂からは陸路にて前川製作所まで搬送されました。到着した患者は救護所テント内で再度全身観察および必要な処置を行い、状態の安定化をはかりました(写真5)。

写真4 屋外で待機する軽症者(緑)、バスで避難所へ向かう 写真5 中等症以上の傷病者(黄・赤)の治療を行う救護テント内

状態の不安定な5名の患者は日本医科大学千葉北総病院ドクターヘリにて筑波メディカルセンターおよび筑波大学に空路搬送を行い、残り4名は陸路にて地域の医療機関へ搬送しました(写真6)。
その後、浸水した病院から救出された18名の患者をのせた大型バスが事前連絡なく到着しました。東日本大震災では大型バスでの病院避難により多くの災害関連死が発生したことを踏まえ、バスにて搬送されてきた患者全員のトリアージを行う方針としました(写真7)。その結果、血圧が低下している患者を2名の発見し、救護テント内に収容、循環状態の安定化の後、医師同乗にて個別に医療機関へと搬送しました。

写真6 病院非難患者のドクターヘリ搬送を担当する日本医科大千葉北総チームと懸命な処置にあたる藤本研修医 写真7 病院非難患者を乗せたバス内でのトリアージ

常総市内には浸水した老人福祉施設が複数存在しており、そのひとつの施設から要担送患者をヘリでつり上げ救出するのにあたり、医師の判断を仰ぎたいとの要請が自衛隊より入り、自衛隊ヘリにて山名医師を救出現場に派遣し、3名の患者を救出しました。
日没および強風のため夜間のヘリでの救出は行わない方針となり、午後8:30前川製作所救護所の撤収が決定されました。同日診療した傷病者は軽症 多数(数百名)、中等症以上42名でした。撤収後、災害対策本部に活動の報告を行い、付属病院DMAT隊は9月12日午前1:00大学病院へ帰還となりました。尚、日本医大多摩永山病院、武蔵小杉病院DMAT隊は9月12日再開された救援活動にも参加し、活動を継続。9月12日20:00東京・千葉・埼玉・神奈川DMATの大雨被害に対する救援活動は終了となりました。