マクロファージが組織の恒常性を維持する仕組みの理解を目指す 分子遺伝医学分野 酒井 真志人 大学院教授

今後は老化の研究にも取り組む

酒井 真志人 大学院教授生物は”恒常性”と呼ばれる体内の状態を一定に保とうとする性質を持っています。全身の組織に広く分布する組織マクロファージは、この恒常性の維持に重要な役割を担っています。分子遺伝医学分野では主に肝臓マクロファージの機能に着目して、肝臓における動的恒常性とその破綻の仕組みの解明、疾患の治療標的となるシーズの同定を目標として研究を進めています。研究においては消化器内科、消化器外科などの臨床科と、非アルコール性脂肪性肝疾患、門脈肺高血圧症、肝再生などに関する共同研究を進めています。
今後は老化の研究により力を入れていきたいと考えています。老化の基盤には恒常性維持機能の低下が存在します。そのメカニズムを解き明かすことで、糖尿病や脂肪性肝疾患などの加齢性疾患の治療にフィードバックできる知見が得られるのではないかと考えています。

未解決の課題に挑戦する喜び

新しい謎に挑戦するとき、研究者は誰もが答えを知らない”素人”です。これまでわかっていなかったことが少しずつ解明されていく過程は新しい発見の連続であり、そのつど、自分自身の成長が実感できます。手つかずの領域を自ら切り拓いていく際の興奮と喜びは、何ものにも代えがたいものです。
その際に大切なのは、異なる領域の専門家との接触です。他分野の専門家ならではの視点は新しい発見につながり、既製の枠組みにとらわれない発想を生み出すでしょう。日本医科大学には付属病院があることから臨床科の医師との距離が近く、それが新たな刺激をもたらすきっかけになっていると感じます。新しい研究の芽は人と人の間に芽生えるものであり、研究を通して人とつながっていくことは大きな喜びです。
“ゲノム”はDNAにコード化された生物の設計図です。人間の体は、この設計図から異なるパターンの遺伝子群が引き出されることで作られた多様な細胞によって構成されており、それらの細胞間のコミュニケーションによって恒常性は維持されています。こうした生命現象を支える緻密な制御機構を解明していくことは、生物としての自分自身の成り立ちを知ることにつながるでしょう。
分子生物学が目覚ましい進歩を続けている今、臨床医学と基礎研究をつなぐ研究者はより必要とされる存在になりました。当研究室では「基礎研究を学び、それを臨床に還元する医師・医学研究者」「臨床で得た疑問を基礎研究で追究する医師」の育成を目指しています。とにかく新しいことを学びたい、知らないことを解き明かしたいという志を持った皆さんと一緒に学び、発見の喜びを分かち合いたいと思っています。

プロフィール

酒井 真志人大学院教授(分子遺伝医学分野)

AMED-PRIME「根本的な老化メカニズムの理解と破綻に伴う疾患機序解明」研究代表者

2002年  神戸大学医学部医学科卒業 糖尿病代謝・消化器・腎臓内科講座に入局
  神戸大学医学部付属病院、加古川市民病院に勤務
2009年  国立国際医療研究センター研究所臨床薬理研究部 流動研究員
2010年  国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター分子代謝制御研究部 研究員
2012年  神戸大学大学院医学研究科博士課程修了
2013年  国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター分子代謝制御研究部 室長
2016年  カリフォルニア大学サンディエゴ校留学 (Dr. Christopher K. Glass研究室)
2020年  日本医科大学大学院医学研究科 分子遺伝医学分野 教授
2022年  日本糖尿病学会 リリー賞