内分泌疾患、代謝疾患、バランスのとれた診療、研究を目指す内科学教室 内分泌糖尿病代謝内科学分野 大学院教授 部長 杉原仁

日本医科大学内分泌糖尿病代謝内科は初代の若林教授が内分泌領域の研究を開始、発展させ、二代目の及川教授が糖尿病、脂質異常による動脈硬化症についての基礎的、臨床研究を継続してきました。2014年からは内分泌疾患、代謝疾患、両者の診療、研究をバランスよく継続、発展させていくことを目標としています。

From bedside to bench

内分泌糖尿病代謝内科学分野では臨床から生まれる疑問を解決するために基礎的研究を行い、病態の解明、治療に貢献出来るような成果を目標としています。以下に基礎的な研究を挙げていきます。

日本人の死亡原因の心疾患、脳溢血の多くは動脈硬化が関与している。その病因の一つである糖尿病の患者数は増加をたどり、糖尿病を否定できない人を含めて約2000万人以上に達します。糖尿病の発症や動脈硬化症についてはメタボリックシンドローム(MetS)が重要な鍵を握っており、この病態を解明することにより発症、予防が可能となると考え、研究を進めています。

高脂肪食に対する感受性(耐糖能異常の出現)を既定する遺伝子的 ■MetSの発症基盤を解析しうる2系統のモデルマウス(Prone系およびResistant系)を新たに確立した。Prone系マウスはResistant系マウスと比較して若齢期から高脂肪食を過食し、将来的に肥満となってMetSの諸症状(体重増加、耐糖能異常、脂質異常、血圧上昇)を示すが、Resistant系マウスはそれらを示さない。そこで本研究では、両系統マウスにおける摂食行動の解析を中心に、高脂肪食環境下でのMetS発症に関与する摂食行動の特徴と、その規定因子の解明を目指す。また摂食行動への効果的な介入方法を検討し、MetS発症や動脈硬化巣形成の抑制効果を検証する。本研究の成果は、MetSの根本的な予防・治療法の開発に寄与する重要な基礎的知見となる。

稀な複合型下垂体機能低下症の患者に遭遇し、病態を解析していますが、まだ明らかになっていません。この病態を解明することにより自己免疫性下垂体炎、先端巨大症、プロラクチン産生腫瘍の治療に寄与すると考え、研究を進めています。

Pituitary transcription factor (Pit)-1 ■Pituitary transcription factor (Pit)-1 は成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)遺伝子の転写調節領域に結合して発現を調節する転写因子である(図、下垂体の分化)。Pit-1に対する抗体が生じる抗Pit-1抗体症候群はGH、PRL、TSHの分泌不全による後天性の下垂体機能低下症を来す疾患であり、2011年に日本から初めて3例が報告された(Yamamoto M, et al. JCI, 2011)。我々は第4例目に遭遇し、この患者の下垂体機能、抗体を解析したが、まだ病態は明らかにはなっていない。ラットを用いて、Pit-1を能動免疫し、抗体の同定、下垂体のGH, PRL, TSH細胞に与える影響を検討し、病態を明らかにする予定である。本研究の成果は抗Pit-1抗体症候群のみならず、下垂体炎、先端巨大症、PRL産生腫瘍の治療法の開発に寄与すると考えている。

腫瘍随伴症状の低血糖の機序には大分子量のインスリン様成長因子 (IGF)-IIが関与することが知られていますが、その病態は明らかにされていません。この病態を解明することで低血糖の予防・治療法の開発に寄与すると考え、研究を進めています。

Conversion of pre-pro-IGF-2 into intact IGF-2 IGF-2とIGF-IR及びインスリン受容体との結合 ■低血糖を呈するIGF-II産生膵外腫瘍における低血糖発症機序の病態は明らかにはなっていない。腫瘍随伴性低血糖症を呈するIGF-II産生膵外腫瘍では腫瘍組織においてpro IGF-IIから正常なIGF-IIが産生される過程でのprocessingの異常により大分子量IGF-IIが産生され,低血糖の発症に関与すると考えられている。本症における低血糖発症機序の解明のため、我々は大分子量IGF-IIの解析を行っており、全国から多くの解析の依頼がある。今後も解析を続け、加えてIGF及びインスリン受容体を発現したヒト肝細胞癌由来の細胞を用いて大分子量IGF-IIの生物活性を評価する予定である。研究の成果はIGF-II産生膵外腫瘍における低血糖の予防・治療法の開発に寄与する重要な基礎的知見となる。

これら基礎的研究は臨床の場で生じた疑問から出発し、from bedside to benchの考えに基づいて計画されたものです。

臨床全般について 専門性、臨床研究、連携の重要性

内分泌糖尿病代謝内科学分野はホルモンの異常による内分泌疾患に加えて糖尿病、脂質異常症、肥満症などの代謝疾患を診療する広範囲にわたる分野です。糖尿病、脂質異常症、肥満症の患者が圧倒的に多く、その中から内分泌疾患(クッシング症候群、先端巨大症、甲状腺疾患、アルドステロン症、褐色細胞腫など)を診断するのが現状です。従って多岐に渡る知識、経験が必要となり、院内の内分泌外科、脳神経外科、泌尿器科、消化器外科、放射線科、女性診療科などと連携し、最高のレベルで患者の診断、治療にあたっています。その過程で生まれる疑問点、課題について基礎的研究、臨床研究をすすめ、国内外の学会、学術誌に発表しています。
課題の遂行にあたり、必要に応じて基礎医学(生理学)、他大学(東北大学)、海外の大学(Lund大学)との共同研究により、前述した基礎的研究を遂行しています。
臨床においては、次の成果を発表してきました。

  • 2型糖尿病におけるエネルギー消費と体重変化の関係 (J Atheroscler Thromb. 2017, 24: 422)
  • 2型糖尿病治療における薬物療法の効果 (J Diabetes Investig. 2017, 8: 341)
  • 脂質異常症、黄色腫と急性冠症候群との関係 (J Atheroscler Thromb. 2017, 24: 949)
  • 糖尿病の合併症と心電図変化 (J Diabetes Investig. in press)
  • 腫瘍随伴性低血糖症と血糖関連ホルモンとの関係 (Endocr J. 2017, 64: 719)
  • 原発性アルドステロン症のサブタイプの鑑別 (Endocr J. 2017, 64: 65)

将来の展望

患者の高齢化、生活習慣の変化から今後も臨床現場は糖尿病患者などの生活習慣病が中心となり、予防、治療、合併症に関する研究は不可欠であり、同時に患者教育、国民への啓発が重要です。現在、定期的に開催している糖尿病教室、糖尿病週間の講演会、近隣との医療連携を継続、発展させていく必要性を認識しています。加えて比較的稀と思われている内分泌疾患の診療の充実も重要であり、医局員には内分泌専門医、糖尿病専門医の取得を奨励し、希望があれば大学院に進学して一定期間、研究に集中することを勧めています。最後に、私達は病気を診るだけでなく、患者の全体像をとらえて診療する総合的な医療、全人的医療を目指しています。

プロフィール

杉原 仁大学院教授
(内科学(内分泌糖尿病代謝内科学)/内分泌糖尿病代謝内科学分野)

日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌糖尿病代謝内科学 大学院教授
日本医科大学付属病院 糖尿病内分泌代謝内科 部長

1983年  日本医科大学医学部卒業
1988年-1997年  日本医科大学 医員助手
1997年-1999年  日本医科大学 講師
1999年-2007年  日本医科大学 助教授
2007年-2014年3月  日本医科大学 准教授
2014年4月-現在  日本医科大学 教授