メカノセラピーにより患者様のQOL向上に貢献する 形成外科学/形成再建再生医学 小川 令 大学院教授

地球の重力などわれわれの体にかかる物理的な力をコントロールすることで傷跡を綺麗にしたり、治らない傷を治すことができます。この、メカノセラピーと呼ばれる最先端の医療技術を開発し、医学にイノベーションを起こしているのが形成外科学教室です。患者さんのQOL向上に貢献を果たせる画期的なアプローチです。

物理的な力をコントロールする

形成外科学/形成再建再生医学 小川 令 大学院教授 形成外科は大きく3つの領域に分けられます。口唇口蓋裂や生まれつき体の一部が欠けているといった先天的異常を扱う「狭義の形成外科」(生まれつきのマイナスをゼロにする)、ケガやがんなどで失われたり変形したりした組織を元の状態に戻す「再建外科」(ゼロからマイナスになったものをゼロに戻す)、そして脂肪吸引やレーザーを用いた美容医療などの「美容外科」(ゼロをプラスにする)の3領域です。日本医科大学では専門医認定を受けるまでに、熱傷や外傷、ケロイドや瘢痕拘縮、顔面骨骨折や頭蓋顎顔面外科、手の外科、乳房再建、頭頸部外科再建、先天異常の病態や治療など形成外科のあらゆる領域を学ぶことができるとともに、臨床に直結した基礎研究に携われることが特徴です。特に力を入れて研究に取り組んでいるのがメカノバイオロジー、メカノセラピーです。

地球の重力など、われわれの体にかかる物理的な力によって細胞がどのような影響を受けているのかを研究するのがメカノバイオロジーで、その応用として物理的な力をコントロールする医療がメカノセラピーです。例えば宇宙飛行士は無重力空間に滞在するうちに骨密度が減り、筋肉が衰え、膝関節の軟骨が小さくなることがわかっています。それは地球の重力という物理的な力が影響しています。また、関節など日頃よく動かす部位に傷ができるときれいに治りにくいものですが、これも物理的な力の影響です。メカノセラピーを考慮してこうした物理的な力をコントロールすることで、傷跡はきれいに治り、ケロイドなども起こりにくくなります。

研究の様子1 さらにメカノセラピーを応用すれば、例えば重度の糖尿病で壊疽のように足の組織が壊死死滅した場合も、壊死した部分のみを切除し、医療機器によって陰圧をかけることで組織が線維繊維化して傷が埋まり、足の切断を免れ、歩行を守ることができます。メカノバイオロジー及びメカノセラピーは最先端の研究として国も注目しており、高額の研究費が投入されています。

患者さんがマスクを外して暮らせるように

生化学・分子生物学(分子遺伝学) 岡田 尚巳 大学院教授 命が助かるなら顔面に目立つ傷あとが残ってもいいとは言えないでしょう。医療技術が進んで命の救われる可能性が高まったからこそ、顔など目立つ場所面に傷が残らないように配慮して欲しいというニーズが高まってきたと考えます。そのニーズに応えることは、間違いなく患者さんのQOL(生活の質)の向上に貢献できるはずです。

以前ならばマスクをして顔の傷を隠していた患者さんが、マスクなしで生活できるようになる。そうした大きな変化を目の当たりにできることは、形成外科学を学ぶ上での大きな喜びでしょう。患者さんの状態は一人ひとりすべて異なりますし、教科書通りの対応で救える患者さんはいません。すべてが想定外なのですから常に創意工夫が求められるわけです。腕を磨くことであらゆる患者さんのニーズに応えていくことは、私たちのプライドでもあります。

当教室においては、80%の力で仕事に取り組み、残り20%を各々が興味を持ったやりたいことに振り向けられるよう、余力を持てる環境づくりを大切にしています。それが臨床の質を高め、研究の発展にも繋がります。そのために必要なのは十分なマンパワーであり、われわれの教室には多くの優秀な人材が豊富にあります。こうした恵まれた環境の中、飽くなき探究心をもった医師・医学者の育成に取り組んでいます。

プロフィール

小川 令大学院教授(形成外科学/形成再建再生医学分野)

日本医科大学 大学院医学研究科 形成再建再生医学分野 大学院教授
日本医科大学付属病院 形成外科・再建外科・美容外科 部長

1999年  日本医科大学医学部卒業
1999年  日本医科大学形成外科入局
2005年  同大学大学院修了
2005年  同大学形成外科助手
2005年  会津中央病院形成外科部長
2006年  日本医科大学形成外科講師、 同大学付属病院形成外科医局長
2007年  米国ハーバード大学ブリガムウィメンズ病院形成外科組織工学・創傷治癒研究室研究員
2009年  日本医科大学形成外科准教授、同大学大学院メカノバイオロジー・メカノセラピー研究室主任研究員
2013年
 -現在 
東京大学形成外科非常勤講師(兼任)
2015年-  現職