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甲状腺癌治療の新たな道を開く 内分泌外科学分野 杉谷 巌 大学院教授

甲状腺癌の治療に関して米国のガイドラインに大きな影響を与えるなどの実績のもと、次世代の若手研究者の育成に取り組んでいます。未知のことが多いからこそ研究への使命感がかき立てられるのも、この分野の魅力です。

「手術をしないで経過をみる」治療への転換

内分泌外科学は甲状腺、副甲状腺、副腎といった臓器を横断的に扱う学問領域です。私自身は日本の内分泌外科学のパイオニアである故・藤本吉秀先生から薫陶を受けたことにより、特に甲状腺癌の研究に打ち込んできました。
概して術後の予後のよい甲状腺癌について、欧米では甲状腺の全摘出が推奨されてきました。一方で日本では、QOL重視の観点から甲状腺温存手術が積極的に行われてきました。こうしたコンサバティブな傾向から、日本では世界に先駆けて、とくにリスクの低い無症候性の微小乳頭癌に対するアクティブサーベイランス(非手術経過観察)の臨床試験が行われました。その良好な成績に基づき、米国甲状腺学会のガイドラインも「手術をしないで経過をみる」治療を採用しています。

図1

日本医科大学付属病院の内分泌外科では、前胸部からアクセスするVANS(Video-Assisted Neck Surgery)法という整容性に優れた内視鏡手術に実績があります。今後は傷が完全に見えない経口内視鏡手術にも力を入れていきたいと考えています。また甲状腺癌の約5%は摘出するまで良性か悪性かの判断がつかない濾胞癌です。そこで手術前にその判断が下せる方法について基礎研究を進め、有望な分子マーカーを発見するなど、着実に成果を上げています。
甲状腺癌の多くは低リスクの癌です。超音波検査などで発見されなければ、生涯無害に経過する無症候性の微小乳頭癌も珍しくありません。従って「早期発見・早期治療」が必ずしもベストとは言えない癌なのです。一方できちんとした治療が必要な高リスク癌もあり、さらにはあらゆる癌の中で一番予後が悪いとされる未分化癌もあります。従って重要なのはその腫瘍が低リスクか高リスクかを見極めて的確に対応することにあり、この点が研究対象としての甲状腺癌の最も興味深い点です。

図2

自らの好奇心のもとテーマに挑んでほしい

甲状腺癌の研究・治療について日本は世界的にも先駆的な成果を上げる一方で、十分な知識がないまま過剰な診断、過剰な治療が行われてしまうケースも少なくありません。個々の症例のリスクを正しく評価することの重要性を啓発することが必要だと考えています。その背景には若手の研究者の育成が遅れているという事実があり、これはオール・ジャパンで取り組まなくてはならない課題と言えるでしょう。日本医科大学の内分泌外科学教室ではその一助となることを目指して指導教育を行っています。
私が大切にしているのは具体的なテーマを与えて手取り足取り指導するというよりも、コンセプトやヒントを提示するにとどめて、あとは自ら好奇心を持ってテーマを掘り下げてもらうというやり方です。また手術に関しての指導は今まで以上に徹底し、手技のポイントを明確に言語化することで成長を促すという方法にトライしたいと考えています。言語化は技術を受け継いでいく際に重要なことですから、育成という点でも成果が上がることを期待しています。
ひとりひとりの患者さんをよく見て、それぞれの患者さんのために一番良い医療を提供することが我々医師に求められるヒューマニティです。正しくリスクを見極めて最適な対応を行わなくてはならない甲状腺癌治療において、その姿勢は特に重要であると感じています。甲状腺癌とはいわばニッチな癌、変わった癌であり、本質的には解明されていないところが多く残されています。だからこそ研究のやりがいがあり、この分野をリードするトップ人材になれる可能性があるとも言えるでしょう。好奇心を大切に、ぜひ多くの方に挑んでいただければと思います。

図3

プロフィール

杉谷 巌大学院教授(内分泌外科学分野)

日本医科大学付属 病院 内分泌外科 部長
日本内分泌外科学会 理事、副理事長
日本内分泌外科学会 甲状腺癌取扱い規約委員長
日本内分泌外科学会 甲状腺腫瘍診療ガイドライン作成委員長
日本内分泌外科学会 甲状腺微小癌取扱い委員長
日本甲状腺学会 評議員
日本内分泌学会 評議員
日本臨床外科学会 評議員
日本小切開・鏡視外科学会 理事
アジア内分泌外科学会(AsAES) Advisory Committee
アジアオセアニア甲状腺学会(AOTA) 理事
国際内分泌外科学会(IAES) 会員
米国内分泌学会(TES) 会員
米国甲状腺学会(ATA) 会員
米国内分泌外科学会(AAES) 会員
など

1989年  東京大学医学部卒業
1993年  癌研究会附属病院(現がん研有明病院)乳腺外科
1994年  同頭頸科
2012年  日本内分泌外科学会 学会賞受賞
2013年  日本医科大学 外科学(内分泌外科学)准教授
2014年  現職
2020年  日本医科大学医学会 優秀論文賞受賞