第4学年 臨床医学(コース講義)

臨床系コース講義

循環器 循環器疾患を理解するには各疾患における明確な理論的構築が不可欠であり、適切な治療を行うには病態生理を正確に理解する必要がある。
現在、循環器疾患の診断・治療は循環器内科、心臓血管外科などの診療科に分かれて行われている。 しかし、臨床医学教育においては、そのような垣根は効率的な学習の妨げになる。このコースでは循環器系を一つの大きなカテゴリーとして捉え、その構造、機能、病態、治療に関し、総合的視野に立って知識を習得することを目標とする。
消化器 臨床医学の中で、消化器病は極めて広い分野を占める。消化器病の正確な知識を習得することは臨床医学に携わる医師として必須である。
上部消化管・下部消化管疾患および肝臓、胆道、膵疾患の学習目標について述べる。消化器の構造、 機能の理解はもとより、消化器疾患に関連する背景病変を知ることが消化器病学および消化器病臨床を学ぶ上で極めて重要である。
最新の消化器病の医療は分子生物学の進歩によるところが多い。食道・胃・十二指腸疾患と細菌(ヘリコバクター・ピロリ)との関連が知られるようになり、疾患概念が激変していることを理解する。
ウイルスが原因でひきおこされる肝炎とその後の病態について解析がすすみ、治療に応用されている。 さらに、大腸ポリポーシス・大腸癌における遺伝子変異についても学ぶ必要がある。
加えて、消化器慢性疾患はもとより急性腹症に代表される腹部救急疾患、特に腸閉塞についてもその病態と治療を学ぶ。
消化器悪性疾患に対する最新の診断技術法、治療法(外科手術、IVR、内視鏡治療、放射線治療)を学び、理解する。
消化器病学を学ぶにあたっては、これまでの内科、外科の領域を越え、正常解剖、組織像と対比することにより、病的状態の肉眼像、組織像の相違を理解し、形態学的診断の基礎を学ぶ。次に各々の病変の発生病理を学ぶ。形態学では肉眼的特徴、組織学的特徴に加え、臨床との関連事項について言及し、 臨床医学へのアプローチを試みる。
呼吸器 呼吸器病学では全般に、疾患の発生機序に関する充分な理解とともに、それぞれの疾患がいかに患者に作用し症状を発現させるかを深く分析する力が求められている。このような視点に立脚し呼吸器病学を理解するよう努める。
呼吸器病学総論、各論、症例検討について講義を行うが、具体的には、個々の講義で呼吸器の構造や働き(呼吸器の生理学や病理学)、診断・治療に関する知識を深めながら、個々の疾患を理解し、最終的には呼吸器病学を体系的に捉えられる力を会得することが目標である。
神経 本コースの目標は、神経系の構造や機能について知り、その異常によって生ずる症状や徴候を学び、 またその異常を惹き起こす神経疾患について知識を得ることである。
救急と生体管理 救急医学は医の原点であるといわれ、また一方では応用医学とも言われている。主な領域は、外傷、 熱傷、中毒などの外因性疾患やショック、多臓器不全、蘇生などやそれらが原因とする生体反応の解明である。既存の外科や内科などの臨床医学や病理学、生化学、法医学などの基礎医学を横断的に包括する学問体系を有する。また、すべての救急疾患に対して緊急時の診断そして迅速な治療が要求されるので、習得すべき知識や技術が多岐にわたっている。しかも重症患者や来院時心肺停止患者に対する診断・ 治療を瞬時に決定する必要があり、それらに対する病態の把握、知識の習得も不可欠である。上記のテーマに加えて実社会のニーズに対応するため、救急医療システム、プレホスピタルケア、災害医学、脳死と臓器移植、災害医療などに関する知識も習得する必要がある。
放射線医学 放射線医学各分野の知識の習得
1) 放射線障害防止、安全管理
2) 放射線解剖と画像診断
3) Interventional Radiology
4) 放射線腫瘍学
5) 核医学
6) 放射線生物学、放射線物理学
内分泌・代謝・栄養 本コースは内分泌学、代謝及び栄養学の系統的な知識を整理し、学習することを目標とする。内分泌学としては間脳、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎及び性腺を対象とする。代謝・栄養学としては、糖代謝、脂質代謝及びその他の代謝を対象とする。これらの各々に関して主たる疾患の病態、診断、治療、予後及び病理を学ぶ。
アレルギー・膠原病・免疫 臨床免疫学、臨床アレルギー学ならびに膠原病・リウマチ学は、免疫学をはじめとする基礎医学の発展につれ、今日まで爆発的な勢いで進歩してきた。また、免疫疾患、アレルギー性疾患、リウマチ性疾患は頻度が高く、原因の解明や新しい治療法の開発に対する社会の要求度が高い。こうした状況にあって、将来の医療従事者たる医学生にとっても、常に新しい免疫学的、アレルギー学的ならびにリウマチ学的視点をもつことが必須である。しかしながら、この分野において対象となる疾患は多様で、極めて広範囲にあり、個々の疾患もしばしば複数の臨床科にまたがるため、学習が容易でない。以上を踏まえ、 本科目における学習目標は、単なる個々の疾患知識の集積でなく、基礎免疫学および臨床各科の最新の知識と技術を可能な限り統合した形で修得することにある。
血液・造血器 生命維持に不可欠な血液細胞である赤血球、白血球、血小板および血漿成分である免疫グロブリン、 凝固因子等の産生機序および機能を理解することにより生命の仕組みを学習する。またこれらの異常によりもたらされる各種血液疾患の病態、診断、治療の知識を身に付ける。また、血液疾患の治療に不可欠な輸血療法、造血幹細胞療法についても理解する。
リハビリテーション医学 急速な高齢化が進む社会で、疾病だけでなく障害をあわせもつ人口が急増している。疾病についての医学的知識にとどまらず、障害という視点から新たに医学を学ぶことはこれからの高齢化社会の必須事項である。障害は単なる手足の麻痺に留まらず多岐にわたり、対処法も様々である。障害に対処する視点からリハビリテーション医学についての総論および各論について知識を深めて欲しい。特にリハビリテーション医学の広範囲に及ぶ普遍性と疾病毎のリハビリテーション医学的対処法、特徴を的確にとらえてもらいたい。
感染症 様々な微生物の体内侵入によって引き起こされる感染症を、細菌、寄生虫、ウイルスなど個々の微生物とそれらが誘発する症状の特徴をもとに学習し、それぞれの感染症の診断、治療へのアプローチを円滑に進めることが出来るようにする。また、生体防御システムの機能低下によって感染症が拡大する実体を認識し、ワクチン等による感染制御の重要性を理解する。
腎・泌尿器 副腎を除く(他コースにあり)後腹膜臓器、および男性生殖器の形態、機能、病態を理解し、臨床実習および研究の基礎となる知識、問題解決能力を習得する。
生殖と女性医学 従来、産婦人科学として一括されていた学問は、生殖医学、周産期医学、腫瘍学、更年期医学、さらにはライフサイエンスとしての女性社会医学的な領域も包括している。コース科目としては周産期医学は新生児学から小児科学へと移行する学問体系として独立してはいるが、一連の生殖現象のある側面であり、本来は周産期領域も女性の一生の医学、すなわち女性医学の一分野に統括されるべきものである。
本コースでは、新生児期、幼小児期、思春期、成熟期、更年期、老年期と変動する女性の一生にわたり、一連の生命現象としての生殖現象を中心とした女性の生理・機能を学習しながら、これを逸脱して生ずる病態の診断、治療に関する総合的な知識を身につける。
運動器・知覚 運動器・知覚コースの第4学年における学習目標は、運動器と関連する脊椎、関節、骨、脊髄・末梢神経、筋・腱の機能と構造を理解し、臨床的には運動器特有の疾患のメカニズムや病態を理解し、その診断・治療の知識を身につける。
周産期医学・成長・発達 周産期医学は分娩周辺期、すなわち妊娠22週から分娩後早期(7日目まで)における母体、および胎児、新生児に関する学問である。しかし、本コースには妊娠の成立から分娩に至る産科学の領域と、周産期、新生児医学、小児医学を包括している。すなわち、ヒトの発生から誕生、学童期までの成長・発達過程、および特有な疾病を学ぶ。
感覚器(耳鼻咽喉科) 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学領域の形態、機能、病態を積極的に理解し、臨床実習の基礎となる知識、 態度、問題解決能力を習得することを目的とする。
感覚器(眼科) 視覚を構成する形態、機能、病態を理解し、眼科学の臨床実習のための基礎的な知識、問題解決能力を習得する。
皮膚・形成・再建 本コースは、皮膚科および形成外科が共同して担当する。まずは皮膚生理、皮膚疾患の病態と治療について総合的かつ体系的に整理学習する。
皮膚疾患は種々の内臓病変の皮膚表現として生じる。また、膠原病、アレルギー疾患などの境界領域病変も多い。従ってどんな臨床科に進んでも必ず皮膚科学の知識が必要となる。以上のことを念頭に置いて皮膚の構造および生体における機能を理解する。さらに皮膚や体表に生じる種々の疾患(炎症、代謝性疾患、腫瘍、変形、欠損)に対して、局所のみならず全身との関連性まで視野に入れた見方ができるように、種々の視覚的教材を用いた学習を行う。
又、主として体表面に生じる先天性の形態異常、熱傷などの外傷や腫瘍摘出による皮膚軟部組織欠損の修復法について理解し医学の中における形成外科の役割を理解する。
精神医学 本コースの目標は、人間の様々な精神機能を知って人間理解を深め良き医師患者関係を築く素地を涵養するとともに、主な精神障害の原因、症候、診断、治療についての知識を身に付ける。
臨床遺伝 近年の遺伝子研究の進歩により医学や医療を大きく変わりつつある。これまで全く原因の解らなかった疾患の責任遺伝子が次々に発見され、病態の遺伝子レベルでの解析や、遺伝子検査による診断が行われるようになっている。さらに、遺伝子を使って病気を治療しようという、遺伝子治療が現実のものになろうとしている。この領域では既に基礎医学と臨床医学の壁は無く、最先端の遺伝子研究の成果が、 直ちに診断や治療に応用されている。このように急速な進歩を続ける遺伝子医学の面白さをわかってもらうことを第一の目標にしている。一方、遺伝情報は個人情報の中でも特殊であることから平成16年に厚生労働省から発表された「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」の中でも遺伝情報を診療に活用する場合の取り扱いについて述べられた。今後、「遺伝」問題への対応はどの医療従事者にとっても求められてくる。その上で、遺伝子情報や遺伝子解析技術を、倫理的問題にも配慮しつつ将来の医学研究や診療に適切に応用できる医学研究者の育成を目指す。
そのために従来の生化学の一分野としての分子生物学だけではない、新しい遺伝子医学の教育を行う。 すなわち、2年次での分子遺伝学と4年次での臨床遺伝の二つの枠で遺伝子医学の講義、実習を行う。 分子遺伝学においては遺伝子の発見から遺伝子操作技術の発展までの遺伝子研究の歴史的流れを、重要な実験結果をもとに概説し、分子生物学の基本原理の理解に努める。臨床遺伝においては、遺伝子研究の成果がどのように現在の臨床医学で応用されているかを理解するとともに、これからの遺伝子医学のあり方を全員で考える。
臨床腫瘍 成人病による死亡が増加しつづける中、死亡原因における悪性腫瘍の占める割合は上昇の一途をたどり、1981年に死因の第1位となってからこの位置をキープし20年が経過している。現在では全死亡者数の30%弱がこの疾患で亡くなっていることを考えると全世界で基礎、臨床を問わずあらゆる分野で、 本疾患の原因究明、治療法の開発に心血を注いでいるのは当然のことである。近年の腫瘍学における基礎医学的、臨床医学的研究の進歩を学び、腫瘍(特に悪性腫瘍)一般に対する生物学的特徴の解明からその治療法に至るまでの幅広い臨床腫瘍に関した最新の知識を理解する。
麻酔・集中管理 麻酔科学、集中治療学は全ての科に共通した基本的患者管理とベッドサイド基本手技を習得する上で、 また急変時の対応および重症患者管理を行う上で重要な位置を占めている。さらに、現在の医療において医療機器の適応および操作・管理方法を確実に理解しておくことは、医療安全管理において最も重要な項目の一つである。
本コースの目標は、医療現場における患者の安全管理を最優先に考え、臨床医として基本的かつ必須の知識・技術を習得することである。
基本臨床実習 SPによる医療面接練習、DVDおよびスモールグループに分かれての診察練習、外科基本手技実習、心電図判読、胸部 X 線読影、各種臨床検査実習、心肺蘇生術実習等に加え、実際に付属病院各診療科の外来見学実習、病棟配属による指導医のもとでの診断学実習やスキルラボを利用したロールプレイを行い、CBT・OSCEに対応した診療に必要な基本的知識と技能を身につける。またSPを用いる「症候から考える」 「総合病態を学ぶ」に加え、外国人SPを交えた英語による診断学実習により、より高度の診断技術を学ぶ。
SGL(少人数教育) Small Group Learning(SGL)は Tutorial learning 或いは Problem Based Learning(PBL)とも呼ばれ、与えられた教材(臨床症例)について学生自らが学習すべき項目(Learning Issue)を抽出し、それらを自ら調べ理解した後に、グループ内で討論することによって知識を獲得してゆく学習法である。 従来の系統講義は教員からの一方的な情報提供であるのに対して、自らが計画して調べ、知識を獲得してゆくこの学習法は学習項目に対してより深い理解が得られる。