第10回JBDA創薬大賞を受賞

 日本医科大学先端医学研究所 生体機能制御学分野 本田 一 文 大学院教授は、「膵がん診断⾎液バイオマーカーアポリポプロテインA2アイソフォームの発⾒と、体外診断⽤医薬品承認、臨床実装」 にて、 第10回JBDA創薬大賞を受賞いたしました。「JBDA創薬大賞」は、画期的な医薬品の創出に寄与する革新的な研究成果を挙げ、医学・医療の発展に多大な貢献をされた研究者に贈呈されるものです。過去には、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ、ヒト抗インターロイキン-6受容体抗体であるトシリズマブ、新規抗体薬物複合体(ADC)trastuzumab deruxtecanなどの日本の代表的創薬案件が受賞している学術賞で、第10回は「画期的なMEK阻害剤trametinib及びRAF/MEK阻害剤avutometinibの発見」した京都府立医科大学創薬センター酒井 敏行 教授と並んで受賞となりました。
(過去の受賞者一覧 https://jbda.org/soyakutaisho


 2025年12月1日(月)、東京大学中島董一郎記念ホールにて開催された第47回JBDAバイオベンチャーフォーラにて、贈呈式ならびに受賞講演が行われました。

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2025年12月1日(月)、東京大学中島董一郎記念ホールにて

右:NPO法人日本バイオベンチャー推進協会  松島 綱治 理事長(東京理科大学教授)

左:本田 一文 大学院教授


QR_code_honda_20251201.png     ※リンク先 NPO法人日本バイオベンチャー推進協会 https://jbda.org/



【研究に対するお問い合わせ】
日本医科大学 先端医学研究所 生体機能制御学部門 
大学院教授 本田一文(ほんだ かずふみ)
E-mail: bioregulation.group@nms.ac.jp



産官学協働による膵がん診断血液バイオマーカー「アポリポプロテインA2アイソフォーム」の発見、

体外診断用医薬品承認、臨床実装


日本医科大学大学院医学研究科 生体機能制御学分野 大学院教授 本田 一文


 膵がんは5年生存率が8.5%と極めて低く、最も治療が難しいがんの一つです。そのため、症状が現れる前に早期に発見できる検査法の開発が長年求められてきました。とくに、膵がんやその高リスク群を効率よく見つけ出すことのできる血液バイオマーカーの実用化には、大きな期待が寄せられていました。
私たちの研究グループは、膵がん診断に有用な新しい血液バイオマーカーの探索に取り組み、血液中に存在する「アポリポプロテインA2アイソフォーム(apoA2-i)」を発見しました。その後、国内外での共同研究により、apoA2-iが既存の腫瘍マーカーであるCA19-9よりも高い精度で膵がんを検出できることを確認しました。特に、ステージIの早期膵がんも捉えることが可能であることを示してきています。
 さらに、東レ株式会社との産学連携により、apoA2-iを検出するELISAキット(商品名:東レAPOA2-iTQ®)を体外診断用医薬品として開発しました。AMEDの支援のもと臨床性能試験を実施した結果、このキットは健常者と膵がんを識別する能力がCA19-9と同等以上であることが明らかになり、加えてapoA2-iとCA19-9を組み合わせることで検出感度が87.7%に達することも確認されました。これらの成果に基づき、2023年には厚生労働省より「膵がん診断を補助する診断薬」として薬事承認を取得し、2024年2月からは公的医療保険にも収載されています。
 これは、既存の膵がん腫瘍マーカーと同等以上の臨床性能を持つ体外診断用医薬品が40年ぶりに承認された画期的な成果です。アカデミアが発見したシーズを、AMEDの支援と東レ株式会社をはじめとする産学官連携によって臨床実証されたものであり、日本発の診断薬創出力を世界に示すものです。現在、健診施設への導入も進んでおり、膵がんの早期発見に向けて大きな期待が寄せられています。


*本研究は、AMED次世代がん医療創生研究事業(研究代表 本田一文)、AMED革新的がん医療実用化研究事業(研究代表 本田一文)の支援で実施されました。


本田一文:博士(医学) 東京医科大学

【研究歴】
2001年  医薬品副作用被害救済・研究振興機構(現PMDA)ポスドク国立がんセンター
2002年  厚生労働技官任官 国立がんセンター研究所
2005年  国立がんセンター研究所 化学療法部室長
2011年  国立がん研究センター研究所 ユニット長
2019年  国立がん研究センター研究所 早期診断バイオマーカー開発部門長
2020年  日本医科大学大学院医学研究科 生体機能制御学分野 大学院教授


【受賞】
1999年  佐々記念賞
2005年  日本分子腫瘍マーカー研究会学術奨励賞
2007年  田宮記念賞
2021年  高松宮妃癌研究助成金
2021年  今井浩三賞
2022年  日本プロテオーム学会賞
2023年  日本薬学会「医薬化学部会賞」
2025年    日本医科大学賞
2025年    第7回日本医療研究開発大賞 健康・医療戦略担当大臣賞
2025年    第10回JBDA創薬大賞


【兼務】
神戸大学医学部消化器内科学客員教授、東京医科大学口腔外科学講座客員教授、
東京歯科大学顎顔面口腔外科学講座 客員教授、熊本大学薬学部先端薬学教授、
東京大学医科学研究所バイオバンクジャパンアドバイザリーボード


【学会役員】
日本癌学会評議員、日本分子腫瘍マーカー研究会理事、日本早期膵がんバイオマーカー研究会理事、National Cancer Institute Early Detection Research Network Associate Member, Cancer Science Associate Editor, Cancer Biomarkers Associate Editor、東京大学医科学研究所バイオバンクジャパンアドバイザリーボードメンバー


JBDA創薬大賞
歴代 受賞者 一覧


第10回 2025年

画期的なMEK阻害剤trametinib及びRAF/MEK阻害剤avutometinibの発見
酒井 敏行 氏(京都府立医科大学)


膵がん診断血液バイオマーカー(アポリポプロテインA2アイソフォーム)の発見と新規体外診断用医薬品の開発
本田 一文 氏(日本医科大学)


第9回 2024年

薬剤耐性グラム陰性菌感染症に対する革新的治療薬セフィデロコルの研究開発
山野 佳則 氏(塩野義製薬株式会社)


第8回 2023年
デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬 核酸医薬ビルトラルセンの実⽤化について
青木 吉嗣 氏(国立精神・神経医療研究センター )
武田 伸一 氏(国立精神・神経医療研究センター )
高垣 和史 氏(日本新薬株式会社)


第7回 2022年
リン濃度調節機構の解明とリン代謝異常症の新規治療法の開発
福本 誠二 氏(徳島大学)
山下 武美 氏(協和キリン株式会社)


第6回 2021年
血液凝固第8因子機能を代替するバイスペシフィック抗体医薬の創出と今後の展望
服部 有宏氏(中外製薬株式会社)
北沢 剛久氏(中外製薬株式会社)


第5回 2020年
抗ウイルス薬ファビピラビル 「アビガン」の研究開発
白木 公康 氏(千里金蘭大学)


第4回 2019年
新規抗体薬物複合体(ADC)創薬への挑戦—[fam-] trastuzumab deruxtecan(DS-8201a)の創製—
我妻 利紀 氏(第一三共株式会社)


第3回 2018年
ヒストン脱アセチル化阻害活性を有する抗腫瘍剤ロミデプシンの発見ストーリーとつくばでのイノベーション
上田 博嗣 氏(筑波大学産学連携部・元アステラス製薬株式会社)


第2回 2017年
アクテムラの開発と革新的な医薬品の創製
大杉 義征 氏(大杉バイオファーマ・コンサルティング株式会社・元中外製薬株式会社)


第1回 2016年
新規がん免疫治療薬抗PD-1抗体ニボルマブの研究開発
柴山 史朗 氏(小野薬品工業株式会社)