診療内容

脳卒中

脳卒中は脳の血管が詰まったり、破れたりすることで生じる病気です。
脳の血管が詰まると、脳梗塞や一過性脳虚血発作になります。脳の血管が破れると脳出血やくも膜下出血を起こすことがあります。
脳梗塞の原因には、年齢や高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、飲酒、肥満、睡眠呼吸障害など動脈硬化性の因子があります。その他、不整脈である心房細動や心臓の中の小さな穴である、卵円孔開存症が原因であることもあります。
これらの因子が合わさって、心原性脳塞栓症やアテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞、その他の脳梗塞という病型に分類される脳梗塞を発症します。
この中で、最も重症な脳梗塞の原因になるのは、心房細動という不整脈です。自宅で血圧を測るとき、時々”脈”にも注意してみましょう。脈が”バラバラ”の場合、(例えば、今は130だけと、昨日は70)、病院にいって心電図をとってみましょう。心房細動の可能性があります。
脳出血の原因も、様々なものがあります。大別すると、高血圧性と脳アミロイドアンギオパチーというものにわけられます。また、くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤であることが多いです。
脳卒中を起こした場合は、適切な予防によって、再発する可能性をおさえることができます。原因を調べることが、とても大切です。

パーキンソン病

静止時振戦(ふるえる)、筋強剛(筋肉が固くなる)、無動(全身の動作がにぶくなる)、姿勢反射障害(体のバランスが悪く、倒れやすくなる)がパーキンソン病の4徴と言われています。それ以外にも様々な非運動症状といわれる、運動に関わる症状以外の症状が出ることがあります。
症状には、ふるえ、転びやすい、動きが遅い、体が硬い、頭がすっきりしない、やる気が出ない、倦怠感、実際にはない物が見える、嗅覚が落ちる、便秘、立ちくらみ、頻尿、尿が出しづらい、などがあります。
原因は主にドーパミンという物質を産生する中脳にあるドパミン神経細胞の脱落とされていますが、その他の多岐にわたる神経の関与があるとされています。
パーキンソン病に特徴的な症状や画像の所見があるかどうか、パーキンソン病の様な症状をきたすパーキンソン病以外のご病気を疑う診察や検査の所見があるかどうか、お薬への反応がどうかなどを総合的に判断し、パーキンソン病と診断します。
治療ですが、根治する治療や進行を止める治療はありませんが、症候改善のための様々なお薬があります。脳内のドーパミンを補うレボドパというお薬を主に使うことが多いです。レボドパへの反応性は早期では良好ですが、進行期になるとウェアリングオフ(お薬が聞きづらい時間が出てくる)、ジスキネジア(お薬が効きすぎてしまう)といった症状が問題となり、症状に応じてお薬を調整していきます。内服でコントロールが難しい際にはレボドパカルビドパ配合経腸用液療法や脳深部刺激療法といったデバイスを使った治療が適応となることがあります。
参考:神経学会ホームページ、パーキンソン病診療ガイドライン2018
https://www.neurology-jp.org/public/disease/parkinson_detail.html#p_04

多発性硬化症 視神経脊髄炎

多発性硬化症、視神経脊髄炎は中枢神経系の脱髄疾患の一つです。神経の線は髄鞘というもので被われています。髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになる病気が脱髄疾患です。この脱髄が中枢神経のあちこちにでき、神経症状の再発を繰り返すのが多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)です。一方、アクアポリン4(AQP4)抗体という自己抗体の発見により、これまで多発性硬化症と言われた中に視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica spectrum disorders: NMOSD)が含まれることがわかりました。
症状には、視力・視野障害、眼球運動障害、めまい、構音障害、筋力低下、感覚障害、膀胱直腸障害等があります。
MSやNMOSDの症状はどこに病変ができるかによって千差万別です。視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。脳幹部が障害されると目を動かす神経が麻痺してものが二重に見えたり( 複視 )、目が揺れたり(眼振)、顔の感覚や運動が麻痺したり、ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。小脳が障害されるとまっすぐ歩けなくなり、手がふるえたりします。大脳の病変では手足の感覚障害や運動障害の他、 認知機能にも影響を与えることがあります。脊髄が障害されると胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿・排便障害などが起こります。
MSになるはっきりした原因はまだ分かっていませんが、自己免疫説が有力です。NMOSDではAQP4抗体が重要な役割をすることが明らかにされつつありますが、この抗体が陰性の患者もいます。この陰性の患者群の一部に、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)抗体が陽性の患者がいることが明らかになり、その臨床的特徴が報告されるようになってきました。ただ、NMOSDにおいても解明されていないことがまだ多くあります。
検査としてはまず頭部や脊髄のMRI検査で病変を確認します。また腰の部分に針を刺して脳脊髄液を調べる髄液検査を行い炎症があるかを調べます。採血検査ではNMOSDではAQP4抗体を調べます。症状によって誘発電位検査を行います。
治療としては、急性期にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法を行います。MSやNMOSDの再発予防には経口ステロイドや免疫抑制薬をはじめとして多くの薬が使用されます。各々の生活スタイルに合わせて主治医と相談しながら決めていきます。
参考:神経学会ホームページ、多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/koukasyo_onm_2017.html
難病情報センターホームページ
https://www.nanbyou.or.jp/entry/3806

重症筋無力症

重症筋無力症は末梢神経 と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の受容体が 自己抗体により破壊される自己免疫疾患です。全身の筋力低下、 易疲労性が出現し、特に眼瞼下垂、 複視 などの眼の症状をおこしやすいことが特徴です。眼の症状だけの場合は眼筋型、全身の症状があるものを全身型とよんでいます。重症化すると呼吸筋の麻痺をおこし、呼吸困難を来すこともあります。
症状には、眼瞼下垂、複視、筋力低下、易疲労性、構音障害、嚥下障害などがあります。
原因となる自己抗体としてはアセチルコリン受容体(AChR)抗体、筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体が知られています。薬剤により誘発される場合もあります。しかし、なぜこのような自己抗体が患者体内で作られてるのかは、いまだによくわかっていません。一方、抗アセチルコリン受容体抗体を持つ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫 )が合併することより、胸腺異常の関与が疑われています。
検査としては採血検査による抗AChR抗体や抗MuSK抗体の確認、テンシロン試験(薬剤を投与して症状が改善するかを調べる検査)、反復刺激誘発筋電図等が行われて診断されます。胸腺の異常がないか胸部CT検査も行います。
治療はコリンエステラーゼ阻害薬やテロイド、免疫抑制薬、血漿浄化療法、大量の抗体を静脈内投与する免疫グロブリン静注療法、モノクローナル抗体製剤等があり、患者さんの症状や状態に応じて、治療方法が選択されます。胸腺腫を合併している場合手術で切除することもあります。
参考;神経学会ホームページ 重症筋無力症診療ガイドライン2014
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/mg.html
難病情報センターホームページ
https://www.nanbyou.or.jp/entry/120

末梢神経障害

末梢神経は、脳と脊髄以外の神経のことを指し、手足先まで全身に、枝分かれをしたり、途中で合流したりしながら、分布している神経です。運動神経が障害されると、筋力の低下につながることがあり、感覚神経が障害されると、手足先のしびれ感や感覚の鈍麻に至ることがあります。
末梢神経障害の原因は、非常に多くあります。加齢や全身的性の病気、免疫学的、炎症性、遺伝性の病気など様々です。
絞扼性障害は、手首や肘などで、骨や皮下組織で神経が圧排されることによって生じます。
糖尿病性の神経障害は、高齢者で多くみられます。
脳神経内科では、免疫学的な末梢神経障害を担当することがあります。急性である場合、ギラン・バレー症候群がその代表であり、慢性の場合は、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎や多巣性運動ニューロパチーが挙げられます。
原因をしっかりと調べることが大切です。検査には、血液・髄液検査や神経生理検査である神経伝導検査などがあります。
神経伝導検査は、末梢神経を電気で刺激することで、電位を誘発して、評価します。神経の伝わる速さ(伝導速度)や大きさ(振幅)などを計算します。
末梢神経障害の治療は、原因に応じて行います。整形外科や脳神経外科、内分泌内科、腎臓内科、膠原病内科と連携した全身的な治療が必要になることもあります。

筋萎縮性側索硬化症

手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく進行性のご病気です。
筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かすための脳や脊髄、脊髄からでる末梢神経の中の運動に関わる神経(運動ニューロン)だけが障害を受けるご病気です。一方で体の感覚や視力、聴力、内蔵の機能などは保たれるのが一般的です。
症状として、手足の力がはいりづらい、飲み込みづらい、しゃべりづらい、などがあります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)以外の脳・脊髄・末梢神経・神経筋接合部(神経と筋のつなぎ目)・筋肉など様々な部位の障害によるご病気によりALSに似た症状となることがあり、血液検査・髄液検査や神経伝導検査や筋電図といった神経・筋肉の機能をみる検査、画像の検査など様々な検査を行いALS以外のご病気を疑う所見がないか確認し、総合的に判断し診断します。
手足の筋力が入りづらくなる、飲み込みづらくなるなど最初にでる症状は様々です。いずれの症状の場合でも、徐々に症状が進行し、呼吸の筋肉を含め全身の筋力のちからが入らなくなり、歩行、発声、飲み込み、呼吸を十分にすることができなくなります。症状の出方や進行のスピードは個人差が大きいです。
現時点ではALSの原因は不明です。多くの場合は遺伝しませんが、全体の中でおよそ5%が家族内で発症することがわかっており、家族性ALSと呼ばれています。家族性ALSの原因となる遺伝子の異常がいくつか特定されています。
残念ながらALSを治す薬は現時点(2023年)ではありません。進行を少し遅らせられるリルゾール、エダラボンといったお薬が認可されています。リハビリテーションや呼吸・栄養のサポート、コミュニケーションのツールの利用など、患者さんの症状や経過に合わせて様々な対処法があり、経過を見ながら専門の医師と相談しながら考えていくこととなります。
参考:神経学会ホームページ、筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013
https://www.neurology-jp.org/public/disease/als_detail.html#a_01
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/als2013_index.html

髄膜炎/脳炎

髄膜炎は、脳や脊髄を覆っている周りの膜である髄膜に起こる感染症です。細菌、ウイルス、真菌(カビ)などが主な原因となります。
脳炎とは、ウイルスが脳に直接感染して起こることもあれば、ウイルスやワクチン、その他の物質が炎症を誘発して起こることもあります。関節リウマチなどと同様に免疫系の異常により症状を呈する場合もあります。炎症が脊髄に波及することもあり、その場合は脳脊髄炎と呼ばれます。
主な髄膜炎/ 脳炎の症状には、以下のようなものがあります:
・発熱:高熱が出る場合があります。
・強い頭痛、頚部痛
・けん怠感
・嘔気、嘔吐
・意識障害:混乱状態になったり、意識がもうろうになったりすることがあります。
診断には上記症状や神経学的な異常がないか確認します。また、脳画像検査(MRIやCTスキャンなど)や、腰椎穿刺(髄液検査)という腰から行う検査をすることがあります。
髄膜炎/脳炎の治療は、原因により、抗生物質や抗ウイルス薬などの薬物療法が必要になります。入院を要する場合も多く、早期の診断と適切な治療が重要です。
参考)日本神経学会ホームページより引用

認知症

1980年代から2000年代にかけて、我が国の65歳以上の高齢者における認知症有病率は3.8-11%とされていましたが、2012年の時点では約15%と報告されています。2025年推定の認知症者数は675から730万人と推定されてきました。
認知症は、慢性あるいは進行性の脳の病気によって、記憶だけでなく、考えや見当識(場所や日時)、理解、計算、学習、言語、判断など多数の脳の機能障害を起こす症候群です。
認知症の原因は、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体病、前頭側頭葉変性症、パーキンソン病、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症など多くあります。
また、認知症と区別すべき病態として、加齢に伴う正常な認知機能低下、せん妄、うつ病、などがあります。加齢に伴う生理的健忘は、体験に対する部分的なもの忘れであり、病識が保たれること、日時の見当識は保たれることが特徴です。
せん妄は、意識障害を伴う急性の精神症状で、注意の集中や維持が困難となる状態です。全身の病気や環境の変化、薬剤による影響などが誘因となることが多いです。
認知症の診断には、神経学的な診察と共に、認知機能検査、画像検査、脳機能画像検査、血液・髄液検査などが必要になります。
認知症の、原因を調べることが、とても大切です。
参考:
神経学会ホームページ、認知症疾患診療ガイドライン2017
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html

てんかん

てんかんは脳神経細胞の過剰な電気的興奮に伴って、意識障害やけいれんなどを発作的に起こす慢性的な脳の病気です。
原因を調べるために脳波をおこないます。原因疾患が見つからない特発性(一次性)のてんかんと、脳梗塞・脳出血、脳腫瘍、脳炎など脳の病変が原因となっている症候性(二次性)のてんかんがあり、症候性の場合はMRIなどで異常がみつかります。
てんかんのある方は1000人に5~8人(日本全体で60万~100万人)と言われています。小児と高齢者で多く見られますが、乳幼児から高齢者のいずれの年齢層でも発症します。
「てんかん発作」には様々な種類があり、異常な電気活動を起こしている脳の部位に対応した様々な症状が出現します。「てんかん発作」は、ほとんどの場合数秒~数分間で終わりますが、時には数時間以上続くてんかん重積状態も起こります。
例えば「全般性強直間代発作」では多くの場合、意識がなくなり、全身が硬くなった後(強直相)、全身をガクガクとさせます(間代相)。症状が軽い場合には、片方の腕や顔の一部だけが数秒間だけ固くなるだけの方もいます。また、突然反応がなくなり数秒間だけ宙をみつめるのが発作の症状の方では、転倒したりけいれんしたりすることもなく、他者からは気づかれないかもしれません。
治療としては、抗てんかん薬を用います(1回目の発作では、使用しない場合も多く見られます)。
抗てんかん薬は「てんかん」の原因を取り除くことはできませんが、「てんかん発作」を起こりにくくします。抗てんかん薬には様々な種類があります。発作の種類やその他の状況(年齢、性、副作用など)により、使用する抗てんかん薬は異なります。
抗てんかん薬を内服することで、大部分の方は発作が抑制され、さらに一部の方では数年後には薬をやめることができるようになります。抗てんかん薬を内服しても発作が充分に抑えられない場合には、脳外科手術を考慮することもあります。
参考)厚生労働省 てんかん対策、日本神経学会ホームページより引用