法医学について

法医学とは、医学的な助言が必要となった法律上の問題に対して、科学的かつ客観的な判断を下すことで、基本的人権や公共の福祉の擁護に寄与する医学領域とされています。そして、法医学者の実務活動として、異状死の死因の診断、死後経過時間の推定、身元不明死体での個人識別などが挙げられます。これらの実務活動は、人権等の擁護に資する他、死因究明活動を通じた公衆衛生への貢献や厚生統計への適正化も期待できます。すなわち、法医実務は大変多面的な側面を有しており、医学的・科学的に適切な判断を下すことは当然ですが、それぞれの事例の背後にある法律的・社会的側面を意識することも重要です。
大学医学部に属する法医学教室は、教育や研究活動を通じて、法医学の理論や技能を修得した法医学専門医や、死因究明活動も担える臨床医の養成、法医学あるいは関連領域についての未知の知見の解明や、法医実務に応用可能な診断技術の開発等が求められています。同時に、個々の法医学的事例がもつ法律的・社会的側面についても、適切に対応することができるように、幅広い視野をもって実務活動(社会貢献活動)を展開していくことが重要です。


卒前教育(学部教育)の指導方針

本学法医学教室では、第3学年に『法医学』の講義を担当しております。本学における法医学教育の大きな目標の1つとして、死亡診断書(死体検案書)を医学上ならび法律上適切に作成することができる、というものが挙げられます。死亡診断書(死体検案書)の記載項目は多くありませんので、一見すると、作成は簡単に思われるかもしれません。しかし、死亡診断書(死体検案書)はヒトの死を医学的に証明する大変重要な書類であり、記載項目が限られていること故に、十分な根拠をもって適切な用語で記載していくことがとても重要になります。
そのためには、法医学に関するさまざまな基礎知識(死体現象、死因論、死後画像の読影・診断、個人識別に関する知見等)を身につけておく必要があり、医学部学生の多くが臨床医を希望している現状を考慮して、将来、さまざまな臨床科を専攻した場合でも知っておくべき法医学の知見を中心に講義を進めていきます。
また異状死の死体検案、白骨死体の鑑定、鑑定書等の作成、死後画像の診断や解剖立ち会いを想定した、実践的な実習・演習も実施しております。なお、法医学の専攻を希望する学生には、個別に対応し、課外学修の機会を提供していきます。
また第2学年には『医事法学』の講義も担当しております。高齢化の進展、日本社会の多様化そして医療技術の高度化により、医学・医療と法律との関連はますます複雑なものとなっています。こうした中で、医事に関する法律とその意味するところを正しく理解することは、臨床医あるいは研究医にとっても大変重要です。医事法学の講義では、まず医学生として知っておくべき基本的な医事法学上の知識が説明できることを目標としていきます。

卒後教育(大学院教育)の指導方針

原則として、将来、法医解剖・死体検案の実務活動を中心として、法医学の教育・研究に従事する法医学者の育成を視野に、大学院生への指導を実施していきます。それぞれの個別の状況に応じて、指導方針・内容は柔軟に対応していきますが、まずは研究を優先的に進めながら、法医解剖の執刀補助で修練を重ね、一定の研究成果を得て、学位取得の目処がついた時点(概ね博士課程4年次)で、法医解剖の執刀医としての独り立ちを検討していきます。
また将来、臨床や他の基礎医学を専攻していくつもりだが、当分野の研究テーマに関心があり、大学院入学を希望する卒業生等についても、個別に柔軟に対応していきます。