特集
女性の心身の問題に生涯寄り添う
─女性生殖発達病態学(産婦人科学)分野─
女性生殖発達病態学(産婦人科学)分野
鈴木 俊治 大学院教授
安全で快適な妊娠・分娩へ向けて「備える」ための研究はもちろんのこと、身体だけでなく心も診ることで女性の一生に寄り添っていくことを目指しています。
現在は4つの研究分野に注力しつつ、メンタルヘルスケアについても大きなテーマととらえています。
NMS Medical Insights Report
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妊娠をポジティブな契機ととらえて
女性生殖発達病態学(産婦人科学)は、次世代の創成を担うジェンダーである女性が個々にとって最良の人生が送れるよう、そのライフサイクルの中で起こりうる現象や疾患に対して、連続的かつ総合的に支援していくことを目的としています。
特に妊娠については自分よりも大切な存在を宿した女性が、改めて自身の人生を見つめ直すよい機会ととらえています。20代~30代という若い時期に自分自身と向き合うことは男性には得られない貴重な時間であり、それをポジティブに受け止めることで、よりよい人生を手に入れるための契機と位置づけています。
こうした考えのもと以下の4つの研究分野に注力しています。

《生殖医学部門》
妊娠率を向上させるために、主として生殖補助医療技術に関する基礎・臨床研究や着床前胚異数性検査に関する臨床研究を行っています。また、いつか授かる子どものために、妊娠(受胎:コンセプション)前から健康状態を向上させるプレコンセプションケアとも関連して、不育症の研究を行っています。
不育症とは妊娠はするものの流死産や早期新生児死亡を繰り返す疾患です。流産は約15%の頻度で起こり得て、その原因の多くは胚の染色体異数性にあり、母体年齢の上昇が主要因になるものの、一部のカップルには一般的な流産と異なった特殊な原因が存在すると推定されています。私たちはその原因を探求して、抗凝固療法などの流死産予防効果を研究しています。
《周産期医学部門》
不育症研究とは別に微生物学・免疫学教室と協働で、無菌性炎症に起因する早産の免疫学的機序の解明、子宮内膜症合併妊娠の周産期予後と対応、胎児発育不全のメカニズム、早産予防のためのホルモン療法や経腹的頸管縫縮術に関する臨床研究を行っています。
また安全で快適な分娩を目指した備えができるように、緊急帝王切開や無痛分娩に関わるリスクや準備の臨床的データを集積し、シミュレーションを繰り返しています。
《婦人科腫瘍学部門》
がん診療センターとの連携し多くの婦人科がん患者の診療にあたっているほか、腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術を行っています。また微生物学・免疫学教室や腫瘍内科部門と協働して、子宮内膜症発生機序や低用量化学療法の作用機序の解明に携わっています。
私たちは婦人科腫瘍部門においても、例えば当科が先行して実施した腹腔鏡下仙骨子宮靱帯固定術が先進医療として保険収載されるなど、教室の持つ古きよき伝統を継承する一方で、常に新たな治療開発へ挑戦する姿勢を大切にしています。
《女性医学部門》
かつて更年期医学といわれた、女性のライフステージに応じた健康管理に関わる部門が女性医学部門です。女性の約80%、特に20代・30代の女性では80%以上が「疲れる・だるい」などの不調でも我慢して家事・仕事を行っていることが報告されています。教室ではこのようなはっきりしない不定愁訴に対しても、寄り添って解決できるような診療・研修に取り組んでいます。
4つの付属病院では、これら4の領域についてそれぞれの地域のニーズと機能に合わせた研究を行いつつ、人事交流によって多様なニーズに対応できる研究・診療体制を整備しています。
メンタルヘルスケアの研究にも力を入れる
前述のように妊娠は女性が改めて自身の人生を見つめ直すポジティブな機会ととらえられますが、一方で妊産婦死亡の一番の原因は周産期・産後うつなどによる自殺とされるなど、妊産婦のメンタルヘルスケアが注目されています。これまでの産婦人科では重症疾患・合併症を身体的に解決することでよしとしていた部分があったことは否定できず、メンタルヘルスケアについては立ち後れていたのが現実でした。
そこで日本医科大学女性生殖治発達病態学教室では妊娠前後の女性が心身ともに健康となれるようなメンタルヘルスケアについて、QOLの高い医療を目指した研究を今後の大きなテーマと考えています。特にその臨床データの収集・解析は、コロナ禍という制約はあるものの喫緊の課題ととらえています。
当研究室が取り組むテーマはあくまでも臨床に沿ったもので、臨床的にどのような新しいメリットがあるかで選択しています。研究が即座に臨床に結びつくわけではありませんが、少しずつでもかまわないので、その研究が進んだ場合にどのような臨床結果につながるかを意識しながら進めることを心がけています。研究の先にある患者さんを意識して研究することで、結果が得られたときの達成感・充実感もひとしおであることは言うまでもありません。
プロフィール
鈴木 俊治大学院教授 女性生殖発達病態学(産婦人科学)分野
日本医科大学 女性生殖発達病態学 大学院教授
日本医科大学 武蔵小杉病院女性診療科・産科 部長
日本産婦人科医会常務理事
1988年 長崎大学医学部卒業
1988年 日本医科大学付属病院産科婦人科学教室入局
1997年 米国ロマリンダ大学胎児生理学教室へ研究留学
2000年 日本医科大学産科婦人科学教室 講師
2001年 日本医科大学産科婦人科学教室 助教授
2002年 東京臨海病院産婦人科部長
2006年 葛飾赤十字産院副院長
2021年 日本医科大学女性生殖発達病態学 大学院教授
掲載日:2022/04/08