胆道癌
1.胆道癌とは
胆汁の通り道である胆道にできる癌を胆道癌といいます。胆汁は肝臓で作られ、胆管を通り十二指腸に分泌されます。途中にこの胆汁を貯蓄し濃縮する胆嚢という袋があります。胆道癌はその発生する部位により肝内胆管癌、肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌、十二指腸乳頭部癌、胆嚢癌に分けられます。
〔 肝内胆管癌 〕
肝臓の中を通る肝内胆管に発生した癌。日本では肝臓癌(原発性肝癌)の一つの型として扱われる(詳細は肝臓癌もご参照ください)。
〔 肝門部領域胆管癌 〕
肝臓の外の胆管のうち、肝臓に近いところ(肝門部胆管)に発生した癌。
〔 遠位胆管癌 〕
肝臓の外の胆管のうち、肝臓から遠いところ(遠位胆管)に発生した癌。遠位胆管の大部分は膵臓の中を通っている。
〔 十二指腸乳頭部癌 〕
胆管の十二指腸への出口(十二指腸乳頭部)に発生した癌。
〔 胆嚢癌 〕
胆嚢に発生した癌。
2.症状
胆道癌は初期には症状に乏しいため早期発見が困難な癌のひとつです。ある程度癌が進行してくると、癌により胆管が狭窄(狭くなること)したり、閉塞(完全につまってしまうこと)したりすることで、黄色い色をしたビリルビンを含む胆汁が腸に流れなくなり黄疸が出現します。黄疸が出現すると皮膚や白眼が黄色くなるほか、尿の色が濃くなる・茶色くなる(血尿と間違える人も多くいます)、便の色が白っぽくなることもあります。また黄疸以外にも、皮膚の痒み、みぞおちや右脇腹の痛み、発熱、だるさ、食欲不振、体重減少などの症状が出ることもあります。
ただしこのような症状は胆石症などほかの病気が原因で起こることもあります。上記のような症状が気になる場合にはかかりつけの先生、もしくは当院の消化器外科、消化器内科にご相談ください。
3.検査
胆道癌が疑われる場合、下記のような検査をして診断を行います。
【 血液検査 】
ビリルビンで黄疸の有無をみるほか、肝・胆道系の酵素(ALP・γGT・ALT・AST)などの値を調べます。胆管が狭窄・閉塞するとこういった値の上昇が見られます。
【 腫瘍マーカー 】
胆道癌ではCA19-9やCEAという腫瘍マーカーが測定されます。癌以外でも上がることもありますが、癌があっても上がらないこともあります
【 腹部超音波検査 】
超音波をお腹からあてて行う検査です。胆管が狭窄・閉塞がないか、胆管や胆嚢の壁に厚みがないかを確認します。
【 CT検査 】
放射線を用い、体の細かい断層写真をとる検査です。胆管が狭窄・閉塞がないか、胆管や胆嚢の壁に厚みがないかを確認します。癌の場所や拡がり、多臓器やリンパ節への転移を確認します。また手術の前には血管などの解剖の確認のためにも行います。病変や血管をよくみるために多くの場合造影剤を使用して行います。
【 MRI検査 】
磁力により体の断層写真をとる検査です。CTよりも質的分解能(がんと正常な組織など、組織の違いを区別する能力)に優れています。胆管が狭窄・閉塞がないか、胆管や胆嚢の壁に厚みがないかを確認します。癌の場所や拡がり、多臓器やリンパ節への転移を確認します。病変や血管をよくみるために多くの場合造影剤を使用して行います。
【 内視鏡検査 】
内視鏡で病変を確認したり、組織をとって病理検査(顕微鏡で癌かどうかを確認する検査)に出したりします。十二指腸乳頭部はいわゆる胃カメラで見ることができますが、胆管内の病変は直接見ることができません。そのため、内視鏡的逆行性膵胆管造影検査(ERCP)という特殊な内視鏡から、細い管を胆管内に挿入し、胆管内に造影剤をいれて放射線で確認する検査をおこなったり、超音波内視鏡検査(EUS)という、先端から超音波をみることのできる内視鏡をつかって胃や腸の中から超音波をあて、胆管や胆嚢を詳しくみる検査を行うことがあります。ERCPやEUSでも病変部の細胞や組織をとって、病理検査を行うことができます。
【 PET-CT検査 】
癌にあつまる特性のある薬(FDG)を注射し、PET検査とCT検査を行い重ね合わせることで、他の臓器やリンパ節への癌の転移を確認します。必要な場合は、当院関連施設にて撮影を行います。
【 肝生検 】
検査や手術により採取した病変を顕微鏡で確認し癌の有無や、拡がり(ステージ)を診断します。ホルマリンで固定したのちに様々な染色を行い判断するため、最終的に結果が出るまでに通常1週間から1ヶ月程度の時間を要します。手術中に手術の術式や切除範囲の判断のために、その場で診断を行う(術中迅速病理診断)こともあります。
4.治療
胆道癌の治療にあたり、黄疸の治療として胆道ドレナージ(狭窄・閉塞により溜まってしまった胆汁を汲み出す治療)が必要になることがあります。胆道ドレナージは内視鏡(ERCP)を用いて狭窄部・閉塞部に胆汁を通す細い管であるステントを留置したり、鼻から体の外までつながる管(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)を閉塞部・狭窄部を越えて挿入したりすることがあります。また、内視鏡でのドレナージができない場合には、体の外から肝臓越しに胆道を穿刺して胆汁を流す管を入れる経皮経肝的胆道ドレナージ術(PTBD)を行うこともあります。
胆道癌の一般的な抗癌治療(癌に対する治療)としては、外科手術と化学療法(抗癌剤)があります。一般的には他の臓器への転移がなければ手術(病変の切除とリンパ節の郭清)が推奨されます。他の臓器への転移等で取り切ることができない場合には化学療法(抗癌剤)が行われます。
<手術>
手術の術式は癌の部位によって異なります。
【 肝内胆管癌 】
病変部の肝臓を切り取る肝切除術が行われます。腹腔鏡手術で手術を行うこともあります。肝癌のページもご参照ください。
【 肝門部領域胆管癌 】
肝臓の付け根の部分の胆管に癌があるため、肝臓の外の胆管(肝外胆管)とともに肝臓を切り取る(肝切除術)必要があります。肝臓の付け根にあるため、肝臓は大きな範囲での切除となり、手術に先行して切除する肝臓の血流をおとし、残す肝臓を大きくする治療である門脈塞栓術を行うことがあります。また、肝外胆管を切除するため、残った肝臓の胆管と腸を縫い合わせて、胆道の再建を行う必要があります。
《代表的な肝門部領域胆管癌の術式(肝拡大右葉切除+肝外胆管切除の例)》
【 遠位胆管癌 】
遠位胆管は大部分が膵臓の中を通り、最終的には十二指腸につながるため、肝外胆管とともに膵臓の一部(膵頭部)と十二指腸を一緒に切除する(膵頭十二指腸切除術)必要があります。膵頭部を切除するため残った膵臓と腸を縫い合わせて、再建する必要があります。同様に肝外胆管を切除するため、残った胆管と腸を縫い合わせて、胆道の再建も行う必要があります。
【 十二指腸乳頭部癌 】
遠位胆管癌と同様に、肝外胆管とともに膵臓の一部(膵頭部)と十二指腸を一緒に切除する(膵頭十二指腸切除術)必要があります。膵頭部を切除するため残った膵臓と腸を縫い合わせて、再建する必要があります。同様に肝外胆管を切除するため、残った胆管と腸を縫い合わせて、胆道の再建も行う必要があります。
《代表的な遠位胆管癌や十二指腸乳頭部癌の術式(膵頭十二指腸切除の例)》
【 胆嚢癌 】
胆嚢癌の手術は癌の拡がりにより異なります。癌がごく浅く、胆嚢だけに限局している場合には胆嚢だけを切除すれば良いこともありますが、通常の場合、胆嚢が付着している部分の肝臓を一緒に切除します。また、癌が胆管まで拡がる場合にはそれに加え、肝外胆管の切除が必要になることがあり、その場合、胆道の再建も行う必要があります。また、癌の拡がりや程度によっては、より大きな範囲の肝臓を切除したり、膵臓の一部(膵頭部)と十二指腸を一緒に切除する膵頭十二指腸切除術が必要になることもあります。
《代表的な胆嚢癌の術式(拡大胆嚢摘出術の例)》
<化学療法>
化学療法はいずれの部位にも共通です。ゲムシタビン(GEM)、シスプラチン(CDDP)、テガフール(S1)という3種類の抗がん剤が使用され、単剤もしくはその組み合わせで行われます。手術の前(安全に手術を行うため、あるいは手術を可能にするため)や手術後に補助化学療法(再発抑制のため)として行われることもあります。最近では遺伝子検索を行い、それに合った治療を行う場合もあります。