コンピュータ手術支援
近年のIT技術の進歩に伴い、患者固有の医用画像を基にした3Dシミュレーション・ナビゲーションを代表とするコンピュータ外科手術支援は飛躍的に発展してきています。消化器外科領域では、3Dワークステーションの機能が向上し、2012年に「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」が保険収載となって以来、わが国の肝切除を行う施設の大部分で導入され、今では最早なくてはならないものになっています。さらに、3Dワークステーションにおいて、各々の臓器に適用したプログラムやアプリケーションが開発、拡充され、膵臓、腎臓などの腹部実質臓器や、心臓血管、肺などの胸部臓器においても手術シミュレーションが可能となってきています。すでに頭頚部領域では、カーナビゲーションのように手術をナビゲートしてくれるニューロナビゲータ(瑞穂医科工業株式会社:東京)が、開発、実用化されています。腹部外科においても同様のリアルタイムナビゲーションシステムの登場が期待されており、様々な研究開発が行われています。
3D手術シミュレーション・ナビゲーション:
「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」の具体的な方法は、3Dワークステーションを使って、術前に患者さんのCTを基に、脈管、腫瘍を含めた、肝臓3Dモデルを構築したのちに、仮想肝切除容積を計算しながら術式をプランニングするという、術前3Dシミュレーションを行うという方法です。その後、術中に3Dシミュレーション画像を術野と比較しながら切除イメージを手術チームと共有し、術中ナビゲーションとして活用しながら手術を施行することが普及しています。また、臓器変形が可能な肝切除シミュレーターで、肝切離のリハーサルを術前にコンピュータ上で施行することも可能です。
蛍光ナビゲーション手術:
昨今、蛍光イメージング技術を活用した消化器外科の手術ナビゲーションが盛んになっています。実際の手術野では生体組織が色分けで区分されてはいません。しかし、蛍光イメージングは特定の解剖学的構造を明確に描出することが可能です。蛍光試薬に近赤外光を照射すると特定の波長の蛍光を発することを利用します。臨床で使用されている代表格がindocyanine greenインドシアニングリーン(ICG)です。ICG蛍光ナビゲーションシステムはすでに市販されており、医療機器として承認を受けています。消化器外科では肝臓、胃、食道、大腸での開腹および腹腔鏡手術において「術中血管等描出撮影加算」が保険収載されています。具体的な肝臓手術での使い方としては、ICGが蓄積した肝腫瘍に赤外光を当てると蛍光を発するので肝腫瘍の場所がわかる方法と、肝臓の血管の枝が担当する領域がわかる方法があります。さらに、胆嚢を切除するときにも胆管が蛍光を発するので手術に大変役立ちます。
3Dシミュレーションによる術前シミュレーション
術中蛍光ナビゲーション
左図の黄色の部分(S2)を切除するため、S2亜区域への流入血管を結紮したのちにICGを投与して、血流のある部分(右図 緑の部分)と血流のない部分(つまりS2亜区域:緑色にならない部分)を確認している。