耳介血種(柔道耳・餃子耳)とは?
柔道耳とは、耳への外力によって生じた血腫が適切に処置されないまま経過した結果、耳の軟骨が線維化・変形し、カリフラワーのような凹凸のある硬い形になってしまった状態です。「餃子耳」「カリフラワー耳」「レスラー耳」などとも呼ばれます。柔道・レスリング・ボクシング・ラグビー・MMAなどのコンタクトスポーツ経験者に多く見られますが、繰り返しの耳への刺激が原因であれば、スポーツ以外でも生じます。
治療を希望される理由は主に、①審美的な問題(見た目・日常生活での自信への影響)と、②軽度の不快感・かゆみ・引っ張られる感覚、③イヤホンの装着が困難、などです。重度の変形では外耳道が狭まり、聴力に影響することもあります。
重要なポイント
変形が確立した段階の治療対象は「血液の塊(血腫)」ではなく、「線維化・軟骨化した固い組織」です。このため、針による吸引などの処置は効果がなく、外科的な切除・再建が必要となります。保存療法(内服薬・外用薬など)では改善しません。
なぜ耳介は変形するのですか?
耳の軟骨は「軟骨膜(perichondrium)」から栄養・酸素を受け取っています。外力によって軟骨と軟骨膜の間に血腫が形成され、それが適切に処置されないと以下の順に変化が起こります。
1.軟骨膜の剥離と軟骨への虚血
血腫が軟骨膜を軟骨から引き剥がし、軟骨への栄養供給が途絶えます。炎症反応も軟骨の破壊を加速します。
2.器質化・線維化
血腫は時間とともに固まり(器質化)、線維芽細胞が増殖して線維組織に置き換わっていきます。
3.新生線維軟骨の形成
残存した軟骨膜から異常な新生線維軟骨が無秩序に形成され、耳介特有のゴツゴツした外観が生じます。
4.皮膚収縮と変形の固定
隆起した線維軟骨に沿って皮膚も収縮し、変形が固定されます。外傷・血腫・線維化が繰り返されると変形はさらに重度になります。
変形が主に耳の前面に生じる理由
耳の前面は皮膚と軟骨膜が密着しているため外力の影響を受けやすく、変形が生じやすい部位です。一方、耳の後面には筋肉・脂肪組織がクッションとして機能するため変形が起こりにくいとされています(Hao et al., 2024)。
変形の重症度と治療方針
耳介変形の手術計画は、どの部位がどの程度変形しているかの評価から始まります。耳介を「耳輪・対輪・三角窩・耳甲介」などのサブユニットに分けて評価し、それぞれに対して適切な術式を選択します。
①軽度
耳の一部に隆起・硬化があるが、耳輪・対輪の輪郭はおおむね保たれている状態。
→変形した線維軟骨の局所切除+縫合形成が適応となります。
②中等度
複数のサブユニットが変形しているが、耳の基本形態は残っている状態。
→サブユニット別の切除・軟骨再形成手術が適応となります。
③重度
耳介全体が高度に変形・硬化しており、本来の耳の形態をほぼ認識できない状態。
→変形組織の広範切除+肋軟骨を用いた耳介全再建が適応となります。
外科的治療の方法
手術の目標は、①変形した線維軟骨組織を取り除くこと、②耳本来の立体的な形態(耳輪・対輪・耳甲介の凹凸)をできる限り再現すること、③皮膚を軟骨骨格に密着させて再発を防ぐこと、の3点です。
各術式の詳細
①繊維軟骨切除術+縫合形成(軽~中等度)
耳の後面(後耳介側)に切開を加えて皮弁を挙上し、変形した線維軟骨をメスまたは超音波吸引器で切除します。残存する軟骨を削って整形し、マットレス縫合などで耳輪・対輪の形態を再現します。
②変法 Valente 法(中等度)
耳後面に楕円形の皮膚切除を行い、軟骨のバネを解放(ヘリカルリリース)しながら変形した線維軟骨を切除・削除します。その後Mustardéマットレス縫合で輪郭を再構築し、皮膚を軟骨骨格に密着させます。小児患者を含む中等度変形例で良好な結果が報告されています(D'Ascanio et al., 2024)。
③肋軟骨による耳介全再建(重度)
軟骨骨格が高度に破壊された重度例に対しては、自家肋軟骨(通常第6〜8肋骨)を採取して彫刻し、耳の骨格として埋入する手術が選択されます。側頭頭頂筋膜弁で骨格を被覆し、皮膚を被せて形態を再建します(Putri et al., 2023)。重度変形に対応できる一方、手術は複数回(多段階)に及ぶことが一般的です。
すべての術式に共通する重要なポイント
変形した線維軟骨を確実に切除すること
皮膚と軟骨骨格を密着させ、血液や浸出液が溜まる「死腔」をなくすこと
術後の適切な圧迫固定を行うこと
コンタクトスポーツ継続中の方は競技引退後に手術を行うと再変形リスクを低減できます
手術後の管理とアフターケア
手術後の管理は、仕上がりの質と再発の有無を大きく左右します。
- 圧迫固定(術後1〜2週間):綿球・シリコンシート・スプリントなどで皮膚と軟骨骨格を密着させます。死腔への液体貯留を防ぐ最も重要な術後処置です。
- 定期的な経過観察(術後1年間):変形の再発・瘢痕収縮・非対称性を確認するため、術後最低1年間の通院が推奨されます。
- コルチコステロイド注射(必要に応じて):術後の瘢痕収縮や肥厚性瘢痕が懸念される場合に補助的に使用することがあります。
- スポーツ・身体活動の制限:耳への再受傷を防ぐため、術後一定期間はコンタクトスポーツを制限します。復帰後は耳部保護具の着用を徹底してください。
- 感染予防:手術部位を清潔に保ち、発赤・腫脹・分泌物・発熱が見られた場合は速やかにご連絡ください。軟骨は血流が乏しく、感染が起きると治癒が困難になります。
肋軟骨全再建術後の多段階手術について
第1期手術(軟骨骨格の埋入と皮膚被覆)のみでは耳の突出感が不十分なことがあります。術後6ヶ月〜1年後に第2期手術(耳介突出術)を行って立体感を改善することが一般的です。
最終的な仕上がりの評価は、すべての手術が完了してから約1年後を目安に行います。
よくあるご質問
Q.変形してから何年も経っていますが、今から手術できますか?
はい、変形が確立してから長期間が経過していても手術は可能です。ただし、変形が重度であるほど手術の複雑さは増し、複数回の手術が必要になることがあります。まずは診察にてご相談ください。
Q.手術後は元通りの耳になりますか?
目標は「できる限り自然な耳の形に近づけること」ですが、外傷前の状態に完全に戻すことは困難な場合があります。軽〜中等度例では整容的に満足のいく結果が得られることが多く、術前に担当医と十分なイメージの共有を行うことが大切です。
Q.手術の傷跡は目立ちますか?
個人の体質(肥厚性瘢痕・ケロイドの傾向)によって目立ち方は異なります。術後のケア(圧迫・保湿・ステロイド注射)で瘢痕を最小限に抑えることができます。
Q.格闘技・ラグビーを続けながら手術は受けられますか?
技術的には手術可能ですが、コンタクトスポーツを続けている間は再変形のリスクが高くなります。このため、多くの専門医は競技引退後またはシーズンオフに手術を行うことを推奨しています。競技継続中に希望される場合は、担当医と十分に相談のうえ、復帰後の保護具着用を徹底することが重要です。


